こういう奴を残しておきたい
蜂場に到着すると鹿野幹大さんが燻煙器を最初に準備する
翌朝、北海道から移動してきた単箱の群から、蜂児のいる巣板を3枚と蜂児のいない巣板を1枚加えた4枚の交配用蜜蜂群を作る作業に、従業員と太平さんは集中していた。
「3プラス1といっても、ちょっと(蜂を増やす)微調整をしているだけですが、問屋が良い蜂を農家に出してやりたくても、ここで良い蜂を作っておかないと、問屋さんでは調整できないから……」
交配用蜜蜂を農家へ出荷する問屋が良い仕事をできるように配慮しての作業だ。
交配用蜜蜂は蜂児のいる巣板3枚と蜂児のいない]
巣板1枚で作る
「これは後回し」と、太平さんが小さく呟いて、次の巣箱に移動した。「王様が分からんかったです」と言う。女王蜂の存在を確認できなければ、群は構成することができない。太平さんと鹿野さんが巣板を見て3枚プラス1枚の群を作っていく。蜜蜂群の中には、勢いの良い群もあって、蓋を開けた途端に蜜蜂が溢れ出る。「本当は、こういう奴を残しておきたいんやけど……。今日はちょっと急いで、明後日までに納品せないかんので……。来年4月までに形を作っておいて、5月からは岐阜県の中でも旬の花から旬の花へちょこちょこ移動しながらシーズンが始まりますからね」
養蜂家は次にやってくるシーズンを頭に描いて、今の仕事をしているのだ。
巣板に蜂児がいるかどうかを確認する鹿野幹大さん
小森養蜂場を取材に訪ねたのは、昨年の11月中旬。移動中は巣箱の中に閉じ込めておいた蜜蜂を大野町の蜂場に設置して巣門を開けて解放した途端に、交配用の蜂作りが始まる。大野町に雪が来る前までに、雪のない三重県へ再び移動しなければならない。人間の都合と自然の移り変わりとのせめぎ合いの中で、蜜蜂の命が掛かった妥協のない「蜂を作る」作業が続く。
昨年(2021年)暮れには、日本海側地方にひと晩で50㎝以上もの積雪をもたらした強い寒波が襲った。30㎝ほども雪が降ると太平さんが言っていた大野町から三重県への移動は間に合ったのだろうか。
巣門の前で払った蜜蜂が巣箱に戻ろうとしている
交配用の巣板を整えていた太平さんが巣板を入れ替えるために移動する
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