真面目にやればご飯は食べていける
蜂を縮める作業をするため潤さんが巣板の上に被せている
麻布をはがす
栄太さんと潤さん兄弟は、4月になるとそれぞれが別のルートへ出発する。栄太さんは秋田県大館市でアカシア蜜を採り、潤さんは長崎県諫早市でミカン蜜を採り、北海道で拠点としている中川郡美深町恩根内(びふかちょう おんねない)で合流する。
「北海道ではタンポポやカエデ、ヤナギの蜜を餌にして蜂を育てて、7月にキハダ(シコロ)の花が咲くと、そっからは総力戦ですね。父と母も集合して、2年前までは祖父母も来てくれてイッダマイ(魂)が入りますね。北海道へ行くと、気分がリセットされるんですよ。『蜂屋さん来たねぇ』って、待ってくれている人がいますもんね。北海道は山が深いんで花も豊富で蜂が育つんですよね。母はもう滅茶苦茶働きますもん。蜜採りの時は飯の支度をして、蜜採りも手伝いに来ますからね。助かりますよね。昔は交配用蜂もやっていましたので、2000群から1500群でやってましたけど、今は蜜採りを中心にして鹿児島に持って帰るのは、1000群から700群の間になりましたからずいぶん楽になりました」
内検を始める潤さんが巣箱の蜂に燻煙器の煙を吹き付ける
「父の時代は蜂蜜の値段も安くて自分たちで売らなければ食っていけない。一斗缶3000円の時代があったんですよ。外国の蜜がいっぱい入ってきて……。ここ20年くらいですよね。蜂蜜の値段が上がってきたのは……。真面目にやっていたら、ご飯は食べていける仕事やと思いますよ。今は一斗缶3〜40000円、アカシア蜜だったら5〜60000円となりますからね。父の時代は、朝採ったのに夕方になったら採り忘れたんじゃないかと思うほど蜜が入っている蜜源のシナの大木があったと言っていましたね。今は蜜源作りからですもん。農家がレンゲを植えなくなっているし、ミカン農家は少なくなっているしですね」
栄太さんが越冬の蜂作りをしながら話を続ける。西垂水兄弟と一緒に働くグエン・ゴック・ダンさん(25)はベトナムから技能実習生として働きに来ていたが、コロナ禍で帰国できなくなり、現在は週28時間労働できる短期ビザをもらって就労している。西垂水養蜂園で働き始めたのは昨年(2021年)7月からだが、日本滞在はすでに3年間が過ぎて日本語は堪能だ。栄太さんや潤さんからは「ダンちゃん」と呼ばれ、黙々と働く真面目さが信頼を受けている。
栄太さんの話が一段落した時、杉林の中に軽自動車のエンジン音が聞こえた。正さんの妻のアツ子さん(82)が、杉林の一角にホダ木を並べた原木椎茸を収穫に来ていた。自家用に充てる他、北海道でお世話になっている方に配るのだという。
ダンさんが燃料にする麻布に火を付けて燻煙器を準備する
アツ子さんが蜂場下の杉林に並べたホダ木の原木椎茸を採りに来た
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi