あんだけ採れれば面白いよね
北海道でお世話になっている人たちに送るミカンを収穫した正さん
翌朝も小雨が降ったり止んだりする空模様だった。午前7時半ごろ作業場になっている倉庫に行くが誰もいない。母屋に声を掛けると、社長の栄作(えいさく)さん(49)が朝食をとっていた。
「雨の日は皆、朝が遅いから。朝ご飯を一緒に食べてください」と、食卓に誘ってもらった。妻の京子(きょうこ)さん(49)が手際良く、私の分もテーブルに並べる。
「祖父ちゃん、祖母ちゃんが北海道に行ってやってくれたからね」と京子さんが、ここまで西垂水養蜂園がやってこられた気持ちを率直に表すと、栄作さんが若い頃を思い出すように話を始めた。
「高校を卒業したら蜂屋をやるんだという意気込みでやり始めた訳ではないのよ。親父と一緒にやれば儲かるだろうくらいの気持ちだったね。水産高校だったから就職先もいっぱいあったけど就職はせずに……。バブルの時代だったから、うちらは全然勉強しなかったけど……恩恵は受けたね。親父たち世代は貧乏だったね。自転車がバイクになり、自動車になる時代だからね。俺もこんなになるとは思ってなかった。家族が皆でやっていたから良かったんだよ。難儀な商売だもんね」
小雨が降る朝はゆっくり朝食をとる栄作さんと妻の京子さん、
栄太さん
栄作さんが話をしているところに栄太さんが顔を出した。続いてダンさんが食卓に着いた。皆で一緒に朝食だ。栄作さんがダンさんの顔を見ながら話す。
「今年の北海道は暑くて大変だった。この子が居てくれたから出来たな。『社長、頑張る、やる』って言って、頑張るから出来たのだから」
その言葉を受けるように栄太さんが「1日100群は採蜜できたもんね」と、夏を思い出したようだ。栄作さんが「あんだけ採れれば面白いよね」と言うと、再び栄太さんが「今年は(一斗缶で)1900本採ってるもんね。これまでの最高記録を200本も更新したもんね」。夏、早朝からのきつい労働を続けて成し遂げた最高記録達成の感激が栄太さんの心に蘇ったようだ。
「北海道から帰ってきた時、桜島インターから桜島を見ると、ああ九州、鹿児島に帰ってきたと感無量でしたよね」と、夏のきつい労働を忘れたかのように弾んだ声を出す。
潤さんが蜂場で空いた巣箱を整理して倉庫に運ぶ
小雨が降る日の午後、栄太さんが倉庫の片付けを始めた
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