2022年(令和4年2月) 59号

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助けていただいたお返しは蜂

 翌朝、栄作さんが待ち構えていたように私を軽トラックの助手席に乗せた。お茶の産地として名高い知覧町の茶畑を巡るというのだ。

 「面積が足りないからほがせ(引き抜け)と、段々茶畑で機械化が進むことで、効率が悪い小さな茶畑が放棄されとるんです。お茶だけでやっている農家は、他の作物に変換できないんですよ。耕作放棄地が茶所の知覧町にもあって、そこにナタネやレンゲの種を蒔いて使わせてもらっているんです。お茶農家に後継者が居ないことや高齢化で耕作放棄地が増えているんですよ。『じゃナタネを蒔いてもいい?』ってことで、一つ一つは小さい畑だけど、合わせれば今のところ1町5反になって、ちょっとずつ増えていってますね。この地域はほとんどお茶一本だもんだから……。うちもお茶が1町5反くらいあったんだよね。お茶が全盛期の時に、30年くらい前かな。(茶畑の管理を)共同でやってるもんだから、朝出てくれ、夜出てくれと作業の担当が回ってくる訳よ。蜂と一緒じゃ体がもたんわ。『止めるんだったら、蜂蜜をやめろ』と、うちの母ちゃんに言われたんだもん。どん底の時代やったね。その頃に北海道に蜜採りに行っている時、(養蜂家として名を知られた)坂東忠男(ばんどう ただお)さんから『お前良く働く、良い子だわ』と褒められて、あれ嬉しかったな」

 見渡すかぎり茶畑が広がる中で、栄作さんが案内をする畑があり、そこに雑草と見間違えるほどの小さなナタネが芽を出している。これらのナタネが春になって花を咲かせれば、西垂水養蜂園の蜂たちの蜜源となるのだ。この後、栄作さんの運転する軽トラックは知覧町を離れて田布川町(たぶがわちょう)へ向かった。

 「ファーマーズマーケット(鹿児島県農業法人協会主催)というのがあって、そこで農地中間管理機構に耕作放棄地の話をしたのよね。そこで枕崎農業委員会に話をしてくれて、田布川町の耕作放棄地を使わせてもらえることになったんだけど、それが5町くらいにもなっちゃって、それから更に増えて10町くらいになって、できるかなと思ったけど、やっつけたよね。ナタネの種を8町くらいは蒔いたよね。でも花を咲かせるのは難しいな。肥料が大事なんだよ。百姓も奥が深けえな。でもな、俺が耕作放棄地を耕して種を蒔くのが農家の刺激になってるんだと思う。放棄してあった周りの畑で芋を作り始めたからな。俺が借りた畑もナタネが花を咲かせる前に猪にやられて失敗したりしたけど、ナタネとヘアリーベッチの種を蒔いて、春には花が満開になると思うよ。農業はやっぱ奥が深いわ。でも西垂水魂を見とけよと思っとるんよ。3、4年前に初めてここに来た時、畑が荒れてる地域だな、年寄りばっかりなんだろうなというのが第一印象でしたね。それが、ここ1、2年で変わってきましたもんね。この田布川町の畑を花で一杯にするのは西垂水養蜂園の夢と野望だよね」

 蜂場の管理は栄太さんと潤さんに任せて、栄作さんは養蜂家として地域で果たす役割を模索しているのだ。もちろん蜂蜜の販売は主に栄作さんが担っている。

 翌日は、田布川町の耕作放棄地を使わせてもらえる切っ掛けとなったファーマーズマーケットが、鹿児島市ウォーターフロントパーク広場で開催され、はちみつ西垂水養蜂園も出店した。栄作さん、栄太さんたちが揃いの「88 BEE KEEPER」ロゴが入ったユニフォームを着て蜂蜜の販売である。栄太さんが店頭で結晶蜂蜜をパックに詰める実演販売をしていた。

 栄作さんが水産高校を卒業する頃の話らしい。正さんが栄作さんに問う。「お前は船に乗るんか」。栄作さんが答える。「うんにゃ乗らん。食べ物屋の商売をしたい」。「そりゃだめだ」と正さん。その頃、栄作さんはこめかみににソリを入れ、地元では名の知られた高校生だったらしい。正さんと一緒に養蜂を始めた2年目に「4トン車を俺が買ったの」と栄作さん。3年目に京子さんと「できちゃった婚だから」と結婚する。「こんだ8トン車の大きいのを買って、子どもの遊び道具を積んで北海道へ採蜜に行ったんだよ」。栄作さんの若い時の勢いは49歳の現在も続く。それを栄太さんが受け継いでいる。栄作さんが私に言った。「栄太には『何でも突っ走ってやれ』と言うとるんですよ。責任は俺が取ってやるって……。でも、まだ栄太はもの足らん」。はちみつ西垂水養蜂園を支える西垂水魂の源は3代続く親子の深い絆だと知った。

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