連合巣箱に入れ替えると今年のスタート
庭を囲むように植えてあるクロキに分封した蜜蜂が自然巣を作っていたと、良雄さんが説明する
良雄さんが2階のベランダで、巣房のサナギの状態や花粉や蜜の入り具合、それと女王蜂の存在を確認しながら、巣板1枚1枚を単箱の横に置いた連合巣箱へ移していく。
「幼虫もいっぱい居ますし、これで安心ですね。息を吹き掛けても温和しいし、可愛いですね」と、良雄さんは巣板に顔を近づけて巣房の奥を覗き込む。蜂が重なって巣房の奥が見えないと、蜂に向かって「避けて」と言うように「ふっ」と小さく息を蜂に吹き掛ける。何枚かの巣板を移動させている時「おっ、これは嬉しいですね。額面蜂児になっていますね。蜜をたくさん採るためには、額面蜂児を作りなさいと言われていますよね」と、私に語り掛ける。「額面蜂児を作る8ミリの間隔で巣板を入れてあげてたんですよ」と、良雄さんが得意顔だ。巣板全面に働き蜂の幼虫がサナギになっている状態を額面蜂児と呼ぶ。それだけ次の世代の働き蜂が多いということで、養蜂家は皆が採蜜期に間に合うように額面蜂児を目指すのだ。
分封した蜜蜂が作っていた自然巣を巣枠に張り付けた
「連合巣箱に入れ替えると、今年の養蜂のスタートだなと実感がありますね。この巣箱だと燻煙器の煙が要らないほど刺さないです。燻煙器の燃料には月桃の葉を使っているんです。薬草だから良いかなと思って……。燻煙蜂蜜って呼んでいるんですけど、それまでとは違った味で香ばしくて美味しいですよ。そういうのが楽しいですね。それに月桃の青い葉に切目を入れて巣枠の上に被せていると、ダニの姿が見えなくなるんです。月桃の葉は昔から沖縄では防虫にも使われているので、感覚的にですが、ダニに効くんじゃないかと思っているんです。家の周りを囲むように植えてあるのはクロキ(リュウキュウコクタン)なんです。三線の棹の材になる木ですよね。分封して住宅地へ飛び出されたら困るので……。実は一昨年でしたけど、分封した群があったんですが、クロキに止まって自然巣を作っていたんですよ。自然巣のまま巣箱に回収して1年ほどは飼っていましたけど、去年10月に自然巣をバラして、巣枠に張り付けたんです。1枚1枚取り上げて見ることによって、卵、幼虫の状態を確認できるんですよね。それに、見学に来る子どもたちに、蜜蜂の自然巣の形は本当はこういう形なんだよというのを伝えていきたいですね。住宅養蜂は色々苦労もあって、養蜂を始めた頃ですけど、『住宅地で蜜蜂を飼っていいのか』と苦情があったということで、役場から連絡もあったですけど、市や県の担当の方も好意的にアドバイスしてくださって……」
連合巣箱の真ん中に載せた継ぎ箱には自然巣を張り付けた巣板を入れながら「ほら、けっこう蜜が」と、黒い蜜蓋の掛かった自然巣の蜜巣板を見せる。「天気が悪かったせいか、少し消費されているみたいですね」。「連合巣箱は2群が共同で蜜巣板に蜜を溜めることになるけど、争わないですね。それに、片方の群に女王蜂が居なくなっても、一方に居る女王蜂が補完するのですかね。やけに凶暴にはならないし、働き蜂産卵も起こらないです。住宅地養蜂で、花の少ない地で2群で蜜を集めるというのが有利なのかなと思いましたよ。冬は普通巣箱に戻した方が良いのかと思っていますね。そこがこれからの課題ですかね」
良雄さんの連合巣箱の説明を聞いていると、良いことばかりのようだ。しかし、養蜂家の間で広がっていかないのは、何か理由があるのだろうか。
巣枠に張り付けた自然巣にも蜜蜂が蜜を溜め蜜蓋ができていた
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