2022年(令和4年2月)60号

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名刺に養蜂修業と書く可能性

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 話は横道に逸れたが、この日の主な作業は、前の日に連合巣箱に巣板を入れ替えた蜜蜂群の内検だ。

 「仕事始めには、(時間を記録するために)時計の写真を撮って、南の空と北の空の写真を撮って仕事を始めるんです」と、良雄さんはコンパクトデジカメを腰の道具袋に入れて、記録的な写真撮影を欠かさない。先ずは、2階ベランダの連合巣箱の内検から始める。

 「これがE群です。おおっ、すごいすごい。小さい群ながら、すごいです。女王蜂も居ましたね。小さい群なのに女王蜂は大きいですね。2階の方が成長が良いように思うんですよね」と、一気に話すと腰に下げていた木酢を巣枠の上に噴霧して蓋を閉じる。次は連合巣箱の反対側の内検だ。「F群です。おっ、これは額面蜂児になっていますね。これは楽しみ」と、何枚も写真を撮っている。

 1階に降りてから内検を続ける。A群の巣板を数枚見たところで「なんで、この時期に王台を作りたがるんだ」と良雄さんが呟く。さらに巣板を丁寧に見ていく。「居ました。王さん居ましたので、大丈夫。安心して王台潰せますね」と、ハイブツールの角で王台の殻を剥がすと、大きな幼虫とローヤルゼリーが詰まっていた。良雄さんはローヤルゼリーの半分を私に渡し、面布をめくって自分でも残りを口にした。「うっ、酸っぱい。これは養蜂家冥利ですよね。口から胃に直結ですね。これで今日は元気に過ごせますね」と、冗談気味に言う。内検を進めていた良雄さんが「これは教科書的ですね」とC群の巣板を私に見せる。雄蜂のサナギと働き蜂のサナギが同じ巣板の近い所に共存していたのだ。

 広げない増やさないを原則にして、名刺に養蜂修業と書く良雄さんの養蜂に対する考え方は、養蜂に無限の可能性を感じさせてくれる。「住宅地養蜂をやるのはお勧めだなと思うんですよ。注意していても分封を起こすことはあるから、そこは知った上でやったら良いかな。銀座でも養蜂が出来るんだったら、何処でも出来るんじゃないかな」。

 好奇心が強いというのか、生活を楽しむ術を心得ているというのか。試行錯誤しながら養蜂を楽しむ良雄さんには、土地の風土を取り込んだ蜂蜜は地産地消が良いという発想にも現れているが、どこかに一番の蜂蜜があって、それを目指して蜂蜜を採るのではなく、その時、その場所で採れた蜂蜜こそが一番と考えているように思えた。「お客さんが『今度はどんな味ですか』と買ってくれると、私の蜂蜜を楽しんでくれているなと嬉しいんですよ」と話す。その根底には、長い教員生活の中で育まれた1人ひとりの子どもの個性を尊重する人生観があるのだろう。良雄さんは、生徒と幸せな関係を築けた教師だったからこそ、蜜蜂とも幸せな関係を築いていける養蜂家なのだ。

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