4月に出会って9月には結納
女王蜂を確認した後、巣板の隅に出来ていた王台を潰すと大きな幼虫とローヤルゼリーが詰まっていた
取材の最終日の朝、良雄さん宅を訪ねると昨日まで置いてあったもう一台の軽ワゴン車がない。「今日、妻は仕事で朝から出掛けていますから」と良雄さんが説明する。妻の睦子(むつこ)さん(60)は子ども英語教室で先生をしているのだ。
良雄さんが埼玉県から沖縄県に戻って2年目に豊見城市(とみぐすくし)の中学校で学年主任を務めている時、初任地だった宮古島勤務を終えて同じ中学校に赴任してきたのが睦子さんだ。学級担任の睦子さんを補佐する副担任となった良雄さん。「4月に出会って9月には結納してたよね」と睦子さん。「出会った途端にお互い一目惚れだったんですか」と念を押すと、2人が一緒に小さく頷く。翌年(1992年)3月29日に結婚したが、その後半年も経たないうちに睦子さんは語学留学のためにアメリカへ行くことになる。半年間の英語集中講座を受講する筈だったのだが、「大学院で勉強したい」と睦子さんのたっての希望で1年間の留学になった。アメリカ留学の1年間はあっという間に過ぎてしまい「予定していた単位を残したまま、帰国しなければならなかった」と、睦子さんは残念そうだ。
良雄さんの作業日誌。Aから始まる蜜蜂群の巣板の数や女王蜂と王台の有無、幼虫、貯蜜の状態などを記録する
睦子さんがアメリカへ留学していた1年間、良雄さんは「彼女とどうやって連絡を取ることが出来るかと模索している時にインターネットというのを知りまして、パソコンの画面の裏には世界が広がっていると感激しましたね」。
アメリカ留学を終えた睦子さんは中学校の英語教師として8年前まで勤め、現在は子ども英語教室の先生という訳だ。「中学校の現場では(アメリカで勉強したことを)あまり活かせなかったけど」と、少々心残りもあるようだ。睦子さんに「蜂の世話は」と尋ねると、黙って手を横に振った。傍らで良雄さんが「虫、苦手だから」と睦子さんをかばう。
ところで良雄さんは、蜂と接することに抵抗はなかったのだろうか。
「小学4年生の時に、1日の気温の変化を記録する宿題が出たんですね。朝早く起きて、夜も遅くまで起きていて、気温をグラフに書き込んでいくんです。そういう真面目さともう一つ思い出すのは、クラスのみんなが蚕を家に持って帰って、桑の葉を与えて育てる宿題もありましたけど、繭まで作ったのは僕ひとりでした。もしかしたら、養蜂家の素地は子どもの頃からあったのかも知れませんね」
「これは教科書的ですね」と良雄さんが声に出す。雄峰のサナギが入っている突起した巣房の蓋(巣枠左隅)と働き蜂のサナギが入った平たい巣房の蓋(画面右)が同じ巣板の近くの巣房に出来ているのは珍しい。良く観察すると、サナギになる前の働き蜂の幼虫が巣房の中に見える
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