2022年(令和4年2月) 60号

発行所:株式会社 山田養蜂場  https://www.3838.com/    編集:ⓒリトルヘブン編集室

〒880-0804 宮崎県宮崎市宮田町8-7赤レンガ館2F

蜜蜂が飛び出すのを防ぐため塀沿いにクロキを植え、外から網で覆った赤嶺良雄さん宅の外観

県道221号線の中央分離帯に支柱が立つゆいレール小禄駅近く。

画面右側にイオン那覇店ショッピングモールがある

小禄駅近くで那覇空港から出発したゆいレールの車両とすれ違う

 赤嶺良雄さんが自宅門扉の前で私を見送ってくれている。蜜蜂の内検をしていたままの麦わら帽子に白いワイシャツ姿に「これじゃ夏の服装ですね」と、良雄さんが自分の姿をおもしろがっている。沖縄だとは言え2月になったばかりでは、いかにも季節外れだ。

 住宅地の三叉路に建つ良雄さん宅を改めて外から眺める。塀の内側に沿ってクロキ(リュウキュウコクタン)が植えられ、それを覆うように白いネットが張ってある。蜜蜂が低い位置から外に飛び出すのを防ぐためと、万が一蜜蜂群が分封してしまっても自宅敷地内に留まるようにするためだ。住宅養蜂には、それなりのリスク管理が必要なのだ。

県道221号線の街路樹根元に咲くサシグサ(アワユキセンダングサ)は貴重な蜜源

ゆいレール小禄駅前公園にあるガジュマルの根元

 今回の「蜂場ぐるり写真散策」の出発点は、ゆいレール小禄(おろく)駅と決めていた。小禄駅はイオン那覇店ショッピングモールと陸橋で直結している。しかし今回は、散策が目的なので歩道橋から階段を降り、県道221号線の北側歩道を南西に向けて歩き始めた。一つ目の信号を渡ると、派手な看板のある美容室の角に出る。この角を右に曲がれば目の前に沖縄そばの看板。ここが良雄さんと睦子さん夫妻がお勧めの行列のできる沖縄そば店「とらや」だ。午後1時を過ぎていたこともあってなのか行列は出来ていない。これ幸いと飛び込んだ。注文は定番の沖縄そばの中(ちゅう)とひじきのせご飯。「麺はどちらにされますか」と店員さんが聞く。「お勧めは」と問い返すと、中細麺と平麺があり「食べやすい中細麺がお勧め」とのこと。それで決まりだ。カウンターに座って、そばが出てくるのを待っているうちに次々と客が入って、カウンターとテーブル席も一杯になってしまった。ほとんどは観光客らしき雰囲気。地元の口コミが観光情報にも反映しているのだろう。

 さて、木製盆に載って出てきた沖縄そばとひじきのせご飯。汁は透明感があるさっぱり系だが、出汁が効いて味に奥行きがある。三枚肉はトロッと軟らかく蒲鉾は上品だ。ひじきのせご飯もコンニャクを少し混ぜたひじきが白飯に山盛りになって絶妙の味のバランスだ。かき込むように一気に食べる。ふっと気になって隣の男性が食べている本ソーキそばを見ると、ソーキ(骨付き豚肉)は別皿に載せてある。透明感のあるさっぱり系の汁の味が濃い味付けのソーキで変わるのを防ぐためと、食べ終えたソーキの骨を入れるためなのだろう。そんなところにも料理人のこだわりを感じる沖縄そば店だった。

沖縄そば店「とらや」の沖縄そば(中細麺)とひじきのせご飯

沖縄そば店「とらや」は赤嶺良雄さんの自宅から徒歩3分

 腹ごしらえを終えて、再び県道221号線をゆいレールに沿って歩き始めた。歩道の街路樹根元の植え込みには、良雄さんが「年間を通じて蜜源になる」と話していたサシグサ(センダングサ)が花を付けている。働き蜂が濃い黄色の花粉団子を両脚に付けて続々と巣箱に戻ってきていたのもサシグサの花粉だ。沖縄でも、さすがに2月上旬では蜜源は限られる。その意味では沖縄の養蜂家にとって貴重な植物だ。

 しばらく歩道を西へ歩くと、ゆいレールの赤嶺駅が空中に浮かんでいるのが見えてくる。日本最南端の駅だ。赤嶺駅の先でゆいレールは大きく右へカーブし、県道221号線は国道331号線にぶつかり終点となる。ゆいレールは国道331号線の頭上を走ることになる。ゆいレールの下を抜けて国道331号線の横断歩道を渡ると、道路に沿って長い金属製の柵が続き内側には広大な緑地が続いている。これが良雄さんの「もうすぐシロツメクサが開花するはず」と言っていた航空自衛隊那覇基地だ。すぐに門柱にシーサーが載った航空自衛隊那覇基地のゲート前に出た。ゆいレールは左へカーブして終点の那覇空港駅へ向かう。航空自衛隊那覇基地の角には、双発プロペラ機や旧型のジェット機が展示してあるのが柵越しに見えた。ここでゆいレールとは分かれ、国道331号線に沿って延々と続く金網フェンスの傍らを歩く。内側には背の高い樹木も見え、茂みが広がっている。ここからは陸上自衛隊那覇駐屯地の敷地になるようだ。良雄さんの蜜蜂は、ここの自然も蜜源にしているのだろうかと気になる。するとオレンジ色の花を付けたカエンボクが目に入った。後ろにグレーの工事用シートに覆われた大きな建物が建っている。入口に沖縄産業支援センターとある。

奥武山(おおのやま)公園の高台にある琉球八社沖宮拝殿横の窪地を覆うように桃色の提灯が吊り下げてあった

奥武山公園を一周する道路脇で

 金網フェンス沿いばかりを歩いていると、暮らしの匂いがする空間が恋しくなっていた。沖縄産業支援センターの前から右に折れて暮らしの匂いを求めて歩く。個人宅や道角の一角に自然の草木があり、暮らしに憩いを与えているのが伝わってくる。やがて一巡りして再び、県道221号線のゆいレール下に出てしまった。道路は緩やかな下り坂になっている。小禄駅と奥武山公園(おおのやまこうえん)駅の間のようだ。左に折れて坂道を下り奥武山公園を目指す。公園は夕方だったためか、散策やジョギングをする人びとで賑わっていた。公園内の高台にある琉球八社沖宮(おきのみや)の鳥居下に門松が飾ってある。旧正月だ。沖宮に参拝した後、拝殿横をすり抜けるようにして後ろに祀られている小さな拝殿の住吉神に参る。境内の小さな窪地の空を覆うように桃色の提灯が沢山吊り下げてあった。何か旧正月の催し物の名残なのか、人の営みの気配に懐かしさを覚えた。

航空自衛隊那覇基地ゲート。基地内の緑地に咲くシロツメグサも蜜源になる

金網フェンスに囲まれた陸上自衛隊駐屯地

 翌日は飛行機の搭乗までに時間があったので、前日の続きを見てみようと、那覇空港ターミナルビルを出て、駐車場の横を抜けて国道332号線(通称空港通り)へ出ると、目の前が全長1140メートルの那覇西道路(那覇うみそらトンネル)の入口だ。那覇空港事務所庁舎前を北へ歩くと、広い道路は右にカーブして貨物ターミナルや燃料タンクなど空港関連施設が続く。燃料タンクの間からわずかに海面が見える。少し先へ歩くと目の前に偉容な建築物が現れた。門表に那覇うみそらトンネル鏡水タワーとある。沖縄県初の海底トンネル那覇西道路の巨大な通気口なのだ。その堂々とした建築物に驚き撮影していると、道路脇に真っ赤なスーパーカーが止まった。運転席から降りてきた黒いスーツ姿の30歳代後半らしき女性が門柱のインターホンを通して内部と何か話し始めた。鏡水タワーの前庭にスーパーカーを入れて写真を撮らせて欲しいと頼んでいるようだ。その結果が気になるところだが飛行機の搭乗時刻が迫っていた。後ろ髪を引かれる思いで那覇空港のターミナルへ向かった。

 あかみね養蜂周辺の半径2㎞を散策して分かったのは、普段は気に留めないような街中の小さな空間にも、住宅養蜂の蜜蜂が花蜜や花粉を採るに充分な自然は息づいていることだった。

沖縄産業支援センターの前のカエンボクがオレンジ色の花を咲かせていた

那覇西道路(那覇うみそらトンネル)鏡水タワーは

海底トンネルの通気口

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