1回の採蜜で1群から5升、6升は採れます
光源寺毅寿さんが、山口市の養蜂家・光永延吉さんのグループに蜂を配達し、巣箱を入れ替える方法を説明する
毅寿さんの一代記を聞いているうちに、市街地外れの小高い丘にある地元の養蜂家・光永延吉(みつなが のぶよし)さん(77)の蜂場に到着すると、光永さんの養蜂仲間が待ちかねたように集まってきた。この蜂場に降ろす56群の種蜂を受け取りに来ているのだ。光永さんが蜜源として植えたビービーツリーの林の中に置いてある空の巣箱の上に重ねて、種蜂の巣箱を置くように毅寿さんが指示する。蜜蜂が巣の位置を覚えるためだ。巣箱を重ねた状態で巣門を開けて蜂を出入りさせれば、蜂は自分の巣箱の位置を覚えるので、巣箱の位置をそのままにして準備していた空箱に種蜂を移動しても、蜜蜂は混乱を起こさないのだ。
巣箱を重ねて置くと、1時間ほど待たなければならない。気は急くが、ここで急げば蜜蜂が混乱を起こす。光永さん以外は職業というより、光永さんに指導を受けながら少数群の蜂を世話している趣味の養蜂家のようだ。空はどんよりとして今にも雨が降り出しそうだ。自然と毅寿さんを囲み養蜂講座が始まった。
蜜蜂が巣箱の位置を覚えるまでの時間に急遽、毅寿さんの養蜂講座が始まった
「こいつら(と毅寿さんが親しみを込めて呼ぶ)今、巣箱から出てきて、一所懸命金網やなんかの匂いを嗅ぎよるよね。こうやって周りの状況や巣の位置を覚えよるんですよ。皆さんの巣箱の縁にどれ位の蜂の死骸があるかで、蜂の飼い方が分かりますね。すぐ刺しに来る荒い蜂は、養蜂家の飼い方でそうなりますからね」と毅寿さん。すると、集まった養蜂家の長老格・宇多敏昭(うだ としあき)さん(73)が「子どもと一緒や。丁寧にやれば良い蜂になるんや」と納得したように声に出す。宇多さんが続ける。「(養蜂を)15、6年やるが、こんなことは初めて。恐らくダニやと思うんやけど。60群ぐらいやりよったんですが、5群6群しか残っとらん。ダニの薬を3回、アピスタンとチモバールをやりよったんやけど……」
相談とも愚痴とも言えない宇多さんの口調だ。毅寿さんが答える。
「今、ダニ剤で効くのはアピバールくらいしかないんですよ。ダニにやられて新しい蜂群を買えば一群2万円から3万円。ダニ剤はケチったら駄目。高いもんじゃないですよ」
宇多さんは、納得したのかしないのか、ぼそりと呟く。
「(養蜂を)やり出して15年になるけど、毎年、やり始めのようなことじゃ」
別の養蜂家が「1群で(蜂蜜を一斗缶に)2缶採ると言うけど、本当ですか」と質問をすると、毅寿さんが答える。
「それを何回の採蜜で採るかが問題ですよね。2回で採るのか6回で採るのか。1回の採蜜で1群から5升、6升は採れます。韓国式の反転の遠心分離機だと6升は採れる。これまで1人で1日やって42缶採ったのが最高。でもね、上には上が居て、150缶採る人が居るんですよ」
輪になっていた皆から「えーっ」と声が上がる。再び、毅寿さんが話を始める。
「何のために仕事をするのか、そこが分かると、これだけやったら、これができると蜂が教えてくれますから。どんな暮らしがしたいのか、そのためにはどんだけの蜂が必要なのか分かるでしょ。僕も先輩に教えてもらって、そのうち1日100群くらい(遠心分離機を)回せるようになりましたね」
毅寿さんは技術的なことを学ぶ別の先輩養蜂家を訪ねた時のことを思い出したようだ。「蜂場を訪ねると400群ほど置いてあるのが、どの箱を開けても、みんな同じになっているんですよ。そんなことが出来るのかと驚きましたね。先輩に驚きを伝えると『当たり前だべよ』と言うんです。そこまでやらないと駄目なんだと思いましたね」
毅寿さんの説明を真剣に聞く山口市の養蜂家・光永延吉さん(中央)と仲間の養蜂家たち
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