穴のない蜂児面が立派
内検していた毅寿さんが「こういう蜂児になって欲しいんですよ。穴がほとんど無いでしょ」と嬉しそうだ
注文に応えるのに適当な蜜蜂群は、群勢の強い群を出荷すれば自分の蜂場の勢いが衰えてしまうし、群勢の弱い群を出荷すれば信用を落とすことになる。その兼ね合いのとれた群を見つけなければならないのだ。
「うん、いい蜂ですね。惚れ惚れしますよ」と、毅寿さんが思わず声に出すような勢いのある群は出荷することはできない。「蜂児面に穴があるということは、そこにウイルスや菌がいる可能性があるということで、穴のない蜂児面が立派と言えますね。これ、全然問題ないです。立派です」と作業の内容を説明しながら、次の巣箱の蓋を開けて手前の1枚目の巣板をゆっくり引き出した毅寿さん「片寄ってねえか」と、驚いたように声を出す。「どうしようかな、1枚、挿しといてやるか」と呟きながら、他の巣箱から引き抜いた空の巣1枚を挿し入れる。蜜蜂を育てる養蜂家の技術としては、どの群も同じ勢いになるように育てることが肝心なのだ。
毅寿さんが塩谷蜂場で梅農家から戻って来た群を内検する
出荷するのに丁度良い群勢の巣箱には蓋にチョークで丸印を付けておく。丸印の中に1とか2の数字を書き入れた群は、「巣板を1枚とか2枚加えるほどの蜂数はいますよ」という種蜂を購入した養蜂家へのメッセージだ。「早くに巣板を足して蜂の密度が薄くなると、チョーク病になるんですよ」と毅寿さん。種蜂を受け取る時期やその後に群が育つまでの時間や気温などを想定してのメッセージである。深い読みに驚く。
毅寿さんが内検を続けながら、私に話し掛ける。「北海道でタマネギの種を採っている会社にも交配用の蜜蜂を貸し出しているんですけどね。他の品種と交雑しないように隔絶された空間で栽培しているタマネギの種を採るのに交配用の蜜蜂を飛ばせるんですが、飛んでいる蜂の数と花に付いている蜂の数をカウンターで数えて、規定より少ないと蜂を増やして欲しいと要望されるんですよ。北海道産のタマネギの6個に1個がうちの蜂が交配した種のタマネギらしいですよ」
毅寿さんが塩谷蜂場で内検し、種蜂として出荷する群れを選び出す
タマネギの種が、そこまで厳密な管理の下で生産されているとは知らなかった。恐らく「種子法の廃止」や「種苗法の改正」という報道はこれまでも目にしていたので、このような法律の動きと関連がある企業活動の一端なのだろう。一般の農家が自由に自家種を採れなくなって経済的負担が増えたり、古くから受け継いできた地元固有種の野菜が栽培できなくなる等の問題を聞いたことはあるが、ここでは深入りをしないでおこう。
塩谷蜂場で内検をする光源寺毅寿さん
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