雄峰の生産機を作っても蜜は採れない

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 翌朝は天候が回復し、重男さんと有祐さんの合同作業と内検が「広場」の蜂場で続いた。

 「あれ持って来い、で分からないかんので……」と、重男さんが有祐さんに厳しいことを言っている。下北半島へ持って行く蜂群を、この蜂場に集めているのだ。

 「あーぁ」と、有祐さんが声を出す。「一面、雄蜂の巣なんですよ。雄蜂の生産機(雄峰の蛹が多い巣版を指して)を作っても蜜は採れない。気を付けとったんですけど……。今の時期、蜂が必要としているから、しゃーない」と、諦め顔だ。

 春の盛り、新しい女王蜂が交尾飛行に飛び立つ季節に合わせて、雄蜂が誕生する自然界の法則があると、有祐さんは自らを納得させようとしていた。

 イチゴ農家での交配から戻ってきた群には、蓋を開けた途端に伝わってくる蜂群の勢いに違いがある。その違いは、蜜蜂に対する農家の扱いの違いが大きい。巣箱の蓋を開けるとウォーンという蜜蜂のエネルギーを感じる群があった。

 「イチゴハウスの外に置いてあった群なんで、花粉を持って来とるんで、卵を産んどるんですね」

 こういう群に出会えると、重男さんの顔もほころぶ。女王蜂を見付け、マーカーで印を付けている。「ピンクが一番判りやすい。自然界にあまり存在しない色やないと、一目で判るようにするには難しい」と、マーカーの色を色々試して、ピンクに決めたそうだ。

 重男さんは「いかに効率良く仕事するかを、いつも考えとる」と言う。「市販で売っとる物でも自分で作って、使ってみて、蜂の道具は全般的に改良しとるんです。搾った蜜を漉す器や蜜巣板を運ぶ一輪車は、一から作りましたね。小回りが利いて軽くて、高さ的にも丁度良いサイズ。蜜巣板を縦にしたら、縦のまま採蜜を終えると効率が良いですよね。後手にならんように気を付けんと……。追い回されるのは適わんからな」

 なるほど、採蜜する遠心分離機は巣板を縦にセットしなければならないのだから、巣箱から取り出した時から巣箱に戻すまで、巣板を縦のまま運べば無駄な力は要らない。それにしても、そこまで効率化を考えている養蜂屋が他に居るのだろうかと、敬服だ。

2022年(令和4年5月)62号

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