飛べない女王蜂の群は存続できない
「これはええ王さん。温和しいて卵をようけ産む」と重男さん
仕事の合間合間で話を聞かせてもらっているうちに、雲行きが怪しくなってきた。
雨になる前に合同を出来るところまでと、急ぐ。「(イチゴ交配の期間は)10月末から今までやから、よう頑張った」と、巣箱の蓋を開けて女王蜂を確認していた重男さんが蜜蜂たちをいたわる。
「おうおう、こりゃええぞ。この王さんはええわ。言うとる意味、分かるやろ」と、私へ視線を送る。「明るい赤っぽい胴をしとる。自分らの好みの王さん。腹が大きくて赤いんがええんよ。温和しいて、卵をようけ産む」
女王蜂にマーカーで印を付けると、「はい、合同。2枚入れてやろか」と蜂群の勢いを見て、10日足らずで成虫になる出房児が居る巣板の枚数を判断し、重男さんが有祐さんを促す。
川北重男さん
重男さんと有祐さんの合同作業は順調に終わり、5月に下北半島へ移動させる採蜜群の内検を始めると、突然、作業のリズムが止まった。
「王さんが居らん。あ、居った。居ったけど未交尾や。えっ、翅がないわ。これはあかん」と、重男さんが翅のない女王蜂を巣箱の外に放り出した。飛ぶことが出来ない女王蜂は、交尾飛行に出ることができない。そのため、この群は存続できないのだ。他の群から卵を産み付けてある巣板を移動して変成王台が出来るのを待つことになった。翅のない女王蜂が生まれた原因は不明である。
2人は何ごともなかったように、継ぎ箱の内検を続け、「こんなん写さんどって、ドウサン(雄の蛹)ばっかりや」とぼやきながら雄蜂の蛹を切っていると、一転して、重男さんが得意そうに「こうなったら、ええんです」と、私に継ぎ箱から抜き取った巣板を見せる。巣板の中央に蜂児の蓋がびっしり出来ていて、その周りに蜜が溜めてある。「これ位で、あと3週間。(下北半島で採蜜する)菜の花にちょうどやな」。重男さんの頭の中には、この群が3週間後にどの様な姿になっているかが見えているのだ。
すると「あっ、降ってきた。仕舞いーっ」と、重男さん。雨がポツポツ落ちてきた。この日の作業は午前11時前に突然終わった。
目立った花はまだ咲いていないのに、蜂群の勢いがあると一面に蜜蓋が掛かった巣板もある
蜂場の中で合同作業する群を移動する
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