何千匹もいますから変わった奴もおる

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 作業場には、作りかけの重箱式巣箱の木片が、そのまま置いてあった。

 「和蜂復活プロジェクトの仲間に配るために、来年用の継ぎ箱を作っとるんです。重箱式巣箱は山口県が発祥なんですよ。箱には杉の赤身を使って、扉にはアスナロという一番腐れにくい木を使います。30年は楽に持ちます。上手くいけば50年も持ちますね。アスナロは良い匂いがするでしょう。来年用の巣箱をもうだいぶ準備していますよ。プロジェクトを始めた頃は年に30個作っていましたけどね。私が入院してからは会の集まりもしなくなりましたし、年に10箱か15箱ですね。巣箱は木裏を外に出した方が長持ちするんですけどね。そうすると、この場合は節が外へ出てしまうので、ここは逆に使おうと思うんです」

 和良さんが作る重箱式待ち箱は見た目も重要なのだ。電動糸ノコで巣門を細工する。

 「これで巣門が出来ました。隙間を5ミリか6ミリにすると(ニホンミツバチが)入りやすいんですよね」

 巣箱作りにひと区切り付いたところで、和良さんは待ち箱に来ていた偵察蜂の動きが気になっているようだ。「入ったら、その夜のうちに移動させなければならないので……」と、再び裏山の蜂場に向かった。ニホンミツバチが待ち箱に入りやすい場所はある程度決まっていて、偶にだが連日入ることもある。そのためミツバチが入ると、(ミツバチが活動しない)夜のうちに飼育場所へ巣箱を移動させ、入りやすい場所には新たな待ち箱を置くことで、より多くのニホンミツバチ群を捕獲することができるのだ。ミツバチが待ち箱に入ったのに気付かず、そのまま翌日以後も置いておくと、ミツバチはその場所を記憶して、後日、巣箱を移動させても元の場所に戻ってしまうことになるので、その場所で新たな群を捕獲することはできなくなる。

 裏山の偵察蜂の状況に変化はなく、作業場に戻ろうとした時だった。何ごとが起こったのか、蜂場入口に置いてあった巣箱から蜂が突然まとわり付くように飛んで来て、あっと言う間に和良さんの鼻の右脇を刺してしまった。

「久志先生(注1)が、ニホンミツバチは人間に懐(なつ)くから、仲良くなれば刺したりはしないからと、面布を着けないで作業をされていましたよね。でも、ミツバチは1群に何千匹もいますから、中にはちょっと変わった奴もおるかも知れませんね。毎年、7、8回は刺されますよ」

 平気そうにしていたが自宅に帰ってよく見ると、「針が残っていた」と和良さん。右の目頭の辺りが赤く腫れている。

(注1)久志冨士男(ひさし ふじお「壱岐・五島ワバチ復活プロジェクト」元代表)

2022年(令和4年7月)63号

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