2022年(令和4年7月)63号

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一本一本の木々に物語

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 翌朝、自宅を訪ねると、和良さんは屋敷内で野菜に水やりをしていた。野菜や盆栽、温室横のキンリョウヘンや蜜源の木の苗木、それに胡蝶蘭の水やりが終わると、ウコッケイなど約100羽の鶏へ給水だ。ひと区切り付くと、昨日、偵察蜂が巣門を出入りしていた玄関横の待ち箱を確認する。偵察蜂らしき数匹の蜜蜂は居るが、動きに変化はないようだ。

 「一つの群から出て、それぞれの待ち箱に来た偵察蜂が群に帰ってから協議している筈なんですけど……。協議が長引いているようですね。待ち箱に入る時には、多数決で決まったところに大群で押し寄せて来ますから、働き蜂が決めるんですよね」

 前の日、和良さんが蜂に刺された裏山の待ち箱も確認に行く。ここにも偵察蜂の姿は見えるけど、変化の兆しは見えない。裏山からの帰り道、竹林の奥に見える穴を指差して「ここ防空壕。空襲警報が鳴ると母親に連れられてここに逃げ込んでいたのを覚えていますね」と和良さん。家の横に背の高いシュロの木がある。「広島大学で社会教育主事のセミナーを受けに行った時、記念に実を拾って持ち帰ったトウジュロというシュロなんです。このビワは家内の里の種を持って来て植えたもんです。シャクナゲは長女の誕生記念だから50年になりますね。餅梅は種を残すために接ぎ木をして残した梅なんですよ。このイチジクはバナーネという世界で一番大きな実を付ける品種なんです」。シュロもシャクナゲも餅梅もイチジクも、庭の木々一本一本に曰く因縁があることに驚く。具体的な物語があるから一層深い愛着が湧くのだろう。

 再び、和良さんの姿が見えなくなったと思っていると、「今日、食べようと思ったらカラスにやられました」とキュウリの支柱横から声がする。「キュウリもね、5回ほど苗を作るんですよ」と、皮だけを残してカラスに食べられたキュウリを手に何だか嬉しそうだ。

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