2022年(令和4年8月)64号

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 周波数を合わせると蜂は温和しい

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 この日、午後4時ごろになってヤナギガエキ蜂場へ内検に行くというので同行させてもらった。朝、巣箱に高波動水を噴霧しに行った矢野さんと濱本さん、それに佳徳さんと志帆さんも一緒だ。蜂場の一番奥から4人がそれぞれに巣箱に向かい内検を始めた。片手にビタミン液の入った計量カップ付き容器を持ち、ビタミン液を計量すると巣板と巣板の間に流し込んでいる。巣板1枚に5ミリリットルのビタミン液をサブリメントとして与えているのだ。続いて高波動水を巣枠の上から噴霧し、人工花粉を巣枠の上に与える。夏の盛り、蜜源になる花は途切れている時期なので、少しだけ砂糖水も与える。気付けば従業員の2人も含め全員が素手で作業をしている。「素手で仕事をするのは、蜂のストレスを緩和させるためなんです」と、志帆さん。確かに、ヤナギガエキ蜂場の蜜蜂は穏やかな感じがする。まとわり付くように面布の周りを飛ぶ蜂は1匹もいない。「周波数を合わせてやって蜂を扱うと、蜂は温和しいですよ」と志帆さんは言うが、蜜蜂と周波数を合わせるということの意味が理解できない。恐らく人間本位ではなく蜜蜂の目線で作業するというほどの意味なんだろうか。

 「新巣板を入れたけど、隣の古い巣板に巣房を盛っている。思うようにやってくれん」と、佳徳さんがぼやいている。「でも、ダニは居らんように見えるし、蜜房をこれだけ盛ってくれるのは今のやり方で良いんじゃないでしょうか」。自らを納得させようとしているのか、私に同意を求めているのか……、応えようはない。4人がそれぞれのペースで内検が進む。蓋に「りつこクイーン」と書かれた巣箱があった。「担当という訳ではないのですが、今日は休みですけど大嶋利津子(おおしま りつこ)さん(37)が主に世話をする群というくらいの意味で、楽しんでやってくれたらいいなという感じですかね」。こう教えてくれる佳徳さんも、ゆったりしたペースの作業だ。蜂場全体の4分の1ほどの内検が終わったところで陽が落ちて、この日の作業は終了だ。

 ヤナギガエキ蜂場からの帰り道。細い山道の両側から夏草が茂り軽ワゴン車の接触アラームがピッピッと鳴り続ける。運転していた佳徳さんがふっと「カラスザンショウが咲いているね」と、助手席の志帆さんに語り掛ける。「カラスザンショウだ、カラスザンショウ」と、佳徳さんが何度も口にする。夕暮れ近い山の緑の中で、房になった白い小さな花を私は見付けることが出来ない。蜜源となる花が咲いているのを見付けて嬉しそうに花の名を声に出す佳徳さんに、養蜂家らしい一面を垣間見た。

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