2022年(令和4年8月) 64号

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目指すは蜜蜂が飛び交う観光農園

 翌朝、蜂場で巣箱に高波動水を噴霧する係は、林田千尋(はやしだ ちひろ)さん(42)と大嶋利津子(おおしま りつこ)さん(37)だ。林田さんは、お菓子作りをしたくて求人に応募して就職したが「蜜蜂に興味もあったので」と蜂場での仕事も抵抗はない。大嶋さんは13年間保育士をしている時、ときつ養蜂園でアルバイトをしていて「声を掛けてもらった」と言う。「自然の中で鳥のさえずりを聞きながら仕事できるのが良い」と蜂場での仕事が楽しそうだ。「蜂が可愛い」と2人は口を揃える。

 この日は、キッチンカーが道の駅・仁保の郷に出店する日だった。蜂蜜を使ったドリンクやジェラートを販売するための仕込みを終えると、濱本さんが販売員としてキッチンカーに乗り込み、佳徳さんと志帆さんが看板を立て、幟やのれんを準備する。昼前になると冷たいドリンクやジェラートを求める家族連れが、途切れなくやって来ていた。

 「養蜂業は、蜂飼いではいけないんです、経営者でないと」や「蜜蜂が健康な環境であるなら、人間にも健康な環境」と、佳徳さんは取材の間に何度か口にした。抗生物質やダニ駆除剤を使わないケミカルフリー養蜂を創業3年目から実践している。「移行する時にすごい蜂が死にました」と、試練も経ているのだ。

 理想の養蜂業経営を目指す佳徳さんは、現在の店舗兼事務所上の広いスペースに建っているもう一軒の古民家を改装して、蜂蜜を使ったオーガニック料理のレストランをオープンし、周り一帯を蜜蜂が飛び交う体験型観光農園にしたいと計画している。理念は「人の健康のために」だ。「5年後には年商3億円」と、口にする。現在、パティシエや接客担当、在宅ワーカーを入れると社員は10人になる。創業から7年、順風満帆に見えるが、「従業員の給料を稼ぎ出すための事業を考える状態。私たちの給料は10万円もあるんかな」と、佳徳さんと志帆さんが顔を見合わせて笑う。

 わずか2日間の取材だったが、印象的だったのは志帆さんの前向きな純真さだ。両親に勘当されても佳徳さんへの愛を貫いた一途さは現在も健在だった。今では、夫婦の枠を超えて、ときつ養蜂園を引っ張る推進力となっている。ところで両親と疎遠になって後悔はないのだろうか。「実は、6年間音信不通でしたけど、弁護士さんを通じて父から和解したいと連絡があったんです。嬉しかった。今では毎日のようにLINEでやり取りしています。父とは偶にですけど会って話すこともあります。先日も湯田温泉で一緒に食事しましたよ」と、志帆さん。佳徳さんと一緒に理想の農園を目指して努力している志帆さんの一途な姿を見れば、両親はきっと納得しているだろうと、私まで安堵の胸を撫で下ろした。

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