2022年(令和4年9月)65号

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冒険家のようなエネルギー

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 庭に出ると、谷に面した西側に設置された3段の棚置き式蜂場に常雄さんが案内する。ヨーロッパの養蜂家を伝える写真などで見たことはあったが、国内の養蜂家では珍しい棚置き式だ。これまでの話の中でも伝わってきていたが、常雄さんには新しい事に挑戦する冒険家のようなエネルギーが湧いているのが、この巣箱の独自な置き方からも伝わってくる。

 自宅から一段上がった裏山の斜面には3連の焼成室を備えた備前焼の登り窯が設えてあり、上り坂の反対側には本格的な工作が出来る大型機械を備えた木工場もある。

 常雄さんから頂いた名刺には、倉敷田中養蜂場と倉敷芸術村と併記されている。話の中に出てきた備前焼きやケヤキの自然木の応接台などは倉敷芸術村で作られていたのだ。芸術村として看板を立てているのは、ここで備前焼や木工を楽しむ人びとがやってきて賑わったのだろう。

 登り窯の裏山には、竹林に囲まれた平置きの蜂場があった。30群ほどの巣箱が並び、円筒形の入口がある独特のスズメバチ捕獲器が設置されている。常雄さんが独自に考えて作った捕獲器である。捕獲器で捕らえたスズメバチの取り出し口が見つからないのだが……、と聞いてみると、「捕獲器に入ったスズメバチの死骸は、2年3年放っといたら、干からびてのうなる(無くなる)」と、常雄さん。捕獲したスズメバチの死骸を取り出すことなど頓着していないのだ。

 竹林の蜂場を出ると、木工場の上の段を南へ向けて小径を少し歩いた所にも、3段の棚置き式蜂場が設置されてあった。手が回っていないのか少々荒れた雰囲気が漂っている。巣門を外に向け、背中合わせで30群ほどの巣箱が並んでいる。常雄さんが巣箱の背中側通路に入って蓋を開けて中の様子を覗き込む。蓋を開ける上下の空間が窮屈なため巣箱の中を見るのに苦労している。

 「今度作る巣箱は、引き出し式にすれば、この倍入るから……。入口を交互にすると、蜂が入口を間違えんのじゃないか。次には、入口を引き出し式にして、巣門の位置を変えて作ってみようと思うとる。蜂飼いは、来年は、来年はで、失敗の連続や」

 常雄さんの脳裏には、棚置き式蜂場の次の課題が閃いたようだ。

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