ま、上がって、茶を飲んでからじゃ
スズメバチの来襲に備えて巣門の前で守りを固める老いた蜜蜂たち
昼食を終えて常雄さんの運転するクラウンで自宅近くまで帰った時、突然、舗装道路を逸(そ)れて雑草茂る荒れ地に停車した。目の前は平屋の大きな廃屋だ。
「ここはガラス工房だったんだよ。頼まれてやってみたけど、今は止めとる。この上に少し巣箱を置いてあるから、見るか」と言いながら、常雄さんは緩やかだが荒れた斜面をズンズン登って行く。カメラを持って追い掛けるが追い付けない。私が巣箱の近くまで辿り着いた時には、巣箱の蓋を開けて内検というほど丁寧ではないが、巣板を引き上げて巣箱の中を次々と確認していた。「王台をいっぱい作って、未交尾じゃな、この王は……」。すぐに蓋を閉じて、次の巣箱の蓋を開けている。「まだ一週間なのに、きれいに食べてくれとる」。一週間前に与えた人工花粉をすっかり食べている群に満足そうだ。「こんだけ仕事しよれば、死ぬ間がない」と、常雄さんが呟く。
これまで作っていた人工花粉は肌理(きめ)が粗く蜜蜂が残してしまうこともあった
自宅に帰り着くと「ま、上がって、茶を飲んでからじゃ」と、常雄さんは先に座敷に上がって人懐っこく誘ってくれる。しかし、ここで「折角だから」と一緒にお茶の時間を始めると、夕方まで話は止まるところを知らないだろう。午前中がそうだった。写真は1枚も撮れなかった。ここは無礼を承知で「辺りの様子を撮影させていただきたいので」と、お茶は断らざるを得ないのだ。
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