周りに養蜂家が居ないんで、自分の系統を保持する
巣板に集る蜜蜂群に掌をそっと当て「ほら、暖かいですよ」と野々山さん
宮古市には野々山さんが独りで来ているため座敷には万年床が敷いてあり、その傍の電気コタツに入るように私を促して、彼は、待ち構えていたように一気に話し始めた。
「5月からこっちに来て、桜やリンゴ(の花)が咲いている頃ですから、リンゴの花粉交配用の蜂をこちらの農協に貸し出して……、5月の始めですわ。その少し前に、埼玉では菜の花(の蜜)を採りますけど、その前に2月15日です。梅林、関東三大梅林の一つの越生町(おごせちょう)へ花粉交配用を100群以上持って行って(その年の活動を)スタートします。梅の花は標高の低い梅林の白加賀から十郎梅、越生紅梅へと高い方へ順々に咲いていって、丁度1か月、3月15日に一斉に巣箱を撤去しちゃいます。それと同時に梅の農薬散布が始まりますからね。蜂を置いている間、僕も梅畑を管理させてもらって実を採っているんですが、僕の梅は4L以上ですね。2Lが人気なんですけど、作業が間に合わなくて、収穫が遅れて大きくなっちゃうんですよ」
巣箱の中を観察する野々山さん
話はだんだん季節を遡る。野々山さんは飲酒をしないので、何度も茶葉を替えては話を続ける。
「埼玉では3月15日には菜の花が満開ですね。蜂がどんどん大きくなる時期ですよね、巣箱を7枚箱から9枚箱へ次々と大きくしていきます。それと3月15日から4月10日までは蜂を売る仕事もやっているんです。みんな蜂を欲しがるんですよ。越冬がうまくいかなかったり、ダニ剤も使わないで(蜂を)使い切りの方もいますよ。埼玉で越冬させたら静岡県の三島市と函南町(かんなみちょう)へ行きます。酪農の盛んな所ですよ。4月10日以降は桜ですね。埼玉県では川越市でアカシアの蜜を採るんです。4月25日から5月15日かな、11年前に養蜂を始めた頃は5月2日か3日には咲いていたんですけど、ここ10年で1週間早くなっていますね。温暖化ですかね。アカシアの蜜は結晶しないというイメージなんですけど、結晶する場合もあるんですよ。温暖化で他の花も混じっているんですかね。宮城県大和町(たいわちょう)では5月15日からトチとクリの採蜜ですね。トチの後でクリを採ったら、手が回らないので岩手だけにします。宮城県の蜂場には周りに養蜂家が居ないんで、採蜜目的だけでなく自分の系統を保持するために交尾場所と育成場所として、蜂数を増やす群を選りすぐって200群ほど持って行くんです。採蜜が終わっても交尾期なんでしばらくは宮城県に置いていますが、6月に入ればもう、ほとんどこっち(宮古市)ですね」
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