長い距離を走るからダブル南京掛けで
熊谷市の蜂場に移動した巣箱を降ろす畠山さん(中央)と木下さん(右)
東北の冬の日暮れは早い。国道から急な坂道を上がった先の門(かど)蜂場は落葉した木立に囲まれていた。午後3時前だというのに蜂場はすでに夕暮れの雰囲気が漂う。
「今回は(埼玉県へ巣箱を移動する)一発目なんで2トン車で行きます」と、野々山さん。
国道沿いのドライブインで落ち合った養蜂家の畠山達也(はたけやま たつや)さん(45)と岩泉町地域おこし協力隊の佐藤誠志(さとう まさし)さん(56)の2人が、巣箱を2トントラックに積み込む手伝いだ。
畠山さんは、岩手県養蜂協会の副会長を務めている。
「祖父が養蜂をやっていたのですが、病気になって、蜂は生き物だから誰かが継いでやらなきゃということで……、両親が継がなかったから、祖父の仕事を私が継いで22年前から始めたんです。祖父と一緒に養蜂をやったのは2か月間だけでした。近年は蜂蜜の価格が上がったので、それでだいぶ違いますね」
畠山さんは、静かで控えめだ。佐藤さんと野々山さんは、キノコ繋がりのようで、キノコ栽培や山でのキノコ採りは佐藤さんが先生役と見受けられる。
巣門を開けた後で蓋を止めていた釘を抜く
2トントラックを蜂場に横付けすると、野々山さんが燻煙器を準備して巣門を閉めて歩く。「ドンゴロスの上に蜜ロウを入れて燃やすと火持ちがしますよ」と野々山さんが、畠山さんに伝えるように声に出す。巣門を閉め終えると、移動中に蓋が外れないように巣箱に紐を掛けた。埼玉県へ運ぶ巣箱は10枚箱と7枚箱と6枚箱の3種類がある。この3種類の巣箱を上手く組み合わせてトラックの荷台にぴったり収まるように、野々山さんは図面を書いてきていた。巣箱を積み込む作業に慣れない佐藤さんに仕事の流れを理解してもらうためだ。野々山さんの気配りが伝わってくる。畠山さんと佐藤さんが巣箱をトラックまで運ぶと、野々山さんがそれを組み合わせて凸凹のないように荷台に積み上げる。畠山さんは蜂場の一番遠い所から巣箱を運び始めた。先に苦労して、後で楽をしようというタイプのようだ。佐藤さんは結構重い筈なのに巣箱を胸で抱えるように持ち、ニコニコと運んでいる。野々山さんと良い関係が築かれているのが伝わってくる。
畠山さんが巣箱の状況を点検して歩く
全ての巣箱を荷台に積み上げ、ロープを掛け終えたのは午後4時過ぎ。「長い距離を走るからダブル南京掛けで締めるから、2重に力を掛けると、ほーらギチギチ締まるやろ」と、野々山さんがロープの掛け方を畠山さんと佐藤さんに伝授する。「僕の親戚が土木業なんで、それでロープ締めを覚えたんです」。野々山さんは得意顔だ。空はまだ明るいが足下は薄暗い。吐く息が白く見えるほど冷えてきた。
「明日は、午後1時に熊谷市のバイパス沿いにあるうどん屋の駐車場で待ち合わせましょう」と、野々山さん。今夜は少し仮眠して、夜中に宮古市を出発して走り続け、明日の昼過ぎには埼玉県熊谷市に到着する予定なのだと言う。
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi