2022年(令和4年12月)67号

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野々山さんが原木ナメコを披露する

原木ナメコを収穫する佐藤さん(右)と野々山さん、左後方には畠山さんも居る

 埼玉県へ移動させる巣箱約80箱を2トントラックに積み終え、門(かど)蜂場の坂道を国道へ向けてゆっくり下る野々山純さん(41)に、佐藤誠志さん(56)が「先に行くから」と声を掛けて車を発進させた。「んっ」今日の仕事は終わった筈だけど……。不思議に思っていると、野々山さんが私に声を掛けた。「トラックの後を付いて来てください。ナメコ採りに行きますよ」。オイオイ、もう足下は暗いぜと思ったが、私の反応は無視。畠山達也さん(45)も国道脇に停めてあった車を発進して、野々山さんのトラックに先行する勢いだ。

 今朝、案内してもらったトーマネ蜂場で、野々山さんが唐突に「ナメコが今、出ているんですよ」と言っていたが、巣箱の積み込みが終わったらナメコを採りに行くことに、初めから決めていたんだと気付いた。この機会を逃すと、野々山さんが次に岩手県に戻ってくるのは3、4日後になるため、ナメコを採る最も良い時期を逃すことになる。キノコ採りは早くても駄目、遅くても駄目。この日、というのがあるらしい。目指すナメコは、その日が今日なのだ。野々山さんのトラックが国道まで下りて、私の車が発進するのをまだかまだかと待っている。兎も角、野々山さんに付いて行くしかない。薄暗くなった閉伊川の支流に沿った国道を約40分走ったところで、野々山さんのトラックは急に左折して小さな橋を渡る。そして、すぐに車のライトに照らし出された林に頭を突っ込むように停車した。辺りはもう真っ暗だ。

野々山さんが原木ナメコを採って見せる

 野々山さんと畠山さんがヘッドライトを点けて、真っ暗な林の中に走り込んでいった。私はヘッドライトを持っていない。カメラバッグの中に小さな懐中電灯があった筈と、まさぐる。ここはどこだ、と思いながらカメラと懐中電灯を手に林の中へ足を踏み入れたが、3人はどこに居る。懐中電灯を消して闇を見ると、ヘッドライトの灯りが闇の中にチラチラと見える。足下は全く見えないため倒木や大きな石に躓(つまづ)きながらヨロヨロと3つの灯りを目指した。

 ようやく3人の居る場所へ辿り着いたが、全体の様子が見えないため状況が掴めない。3人は、ひと言も発することなくカッターナイフを手にナメコ採りに集中している。ヘッドライトに照らし出されているナメコは、街の店で売っているようなヤワな物ではない。ナメコにしては大きな傘が重なり合うように原木に貼り付いている。しかし、自然木に生える天然ナメコではなく、佐藤さんが栽培している原木ナメコなのだ。「もう、今日、採ってしまおう」と、佐藤さんが少し離れた所から声を出す。野々山さんと畠山さんの動きが速くなった。

佐藤誠志さんが栽培している原木ナメコ

 この原木ナメコは、佐藤さんが2年前の3月に山桜やナラなどの原木に駒菌を打ったナメコだ。「ムキタケとナメコは天然でも最後に出るキノコなんです。雪が降っても雪の下にあるようなキノコでね。原木ナメコは4、5年採れるんで、あと3年は採れますね。野々山さんが蜜蜂の巣箱を置いている環境は、キノコが出やすい環境なんですよ。気温や湿度は勿論ですが、近くに沢もあって、直接西日が当たらない場所というのはキノコにも良い環境なんですよ。蜂場へ手伝いに行くと地面からナラタケが発生していたことがあって、野々山さんは知らなかったみたいですが、岩手では人気のキノコなんですよ。野々山さんは今年初めて松茸採りに挑戦したんです。それが、1年目で50本も採ったんですよ。普通それはあり得ないです。多くて10本も採れれば良い方なんですけど、50本はあり得ないですよ。キノコ採りは根性とセンスなんです。四六時中、キノコの事を考えている人がキノコ採りの名人。野々山さんは山を見ていて、あの山に松茸が出そうだ、と言いますもんね。やるとなったら、あの人、根性あるんですよ。徹底的にやりますもんね」。

 キノコ採りの先生、佐藤さんが野々山さんのキノコ採りセンスを褒める。原木ナメコを採り終えて林から出てきた3人の表情は、いくぶん上気しているように感じた。闇の中で獣が獲物を獲るように原木ナメコに無我夢中の15分間だったのだ。

ナメコ採りを終えて一息している3人

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