2022年(令和4年11月) 67号

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スズメバチにやられていましたね

 「次の蜂場に行ってみますか」と野々山さんは、2トントラックを運転して沢沿いの林道を山の奥へ向かう。周辺の木々は葉が落ちて明るい林道だ。10分余り走った所でトラックを停めた野々山さんが、沢の淵に立つ大きなケヤキの根元に降り積もった落ち葉を両手でグッと掴む。厚い層になった落ち葉の下は腐食していて、白い筋状の糸状菌が発生している。

 「この菌が良いんですよ。食べても良いんですよ。この沢で晩飯のイワナを釣るんです。大きなイワナが居ますよ。熊も出ます。岩陰の見晴らしの良い所に居るんですよ」

 すぐ傍らの開けた平地に巣箱が並んでいる。ここが荒川蜂場なのだ。私が沢の様子を撮影している間に蜂場の様子を見に行った野々山さんが、「スズメバチにやられていましたね」と背中に赤印の付いた女王蜂の死骸2つを掌に乗せて戻ってきた。急いで蜂場へ行くと、巣門の前に蜜蜂の死骸がびっしりと落ちている。野々山さんは無言だ。

 しばらくして野々山さんが「あれはトチノキなんですよ」と、蜂場との境になっている林の端に聳える大木を指差す。私がトチノキの撮影をしていると、野々山さんはトラックの運転席に向かって歩き始めた。荒川蜂場でも仕事らしいことはしないままだ。巣箱の蓋を開けるだけで巣箱内の温度が下がる初冬には、内検はしたくないのかも知れない。

 荒川蜂場を出発して沢沿いの林道を下り、集落の細い道を抜け川沿いの国道に出ると、上流に向かって1時間ほど走り続けた。

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