2023年(令和5年2月)69号

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帷子﨑の展望所から望む。「子どもがおる時にはよく釣りにきた」と藤岡さんが呟く

竜海岸へ下りる小径でユズリハ

 横浪半島の蜂場を藤岡信雄さんに案内していただいた時、ヒサカキやネズミモチなど蜜源となる木は教えてもらったが、実際に花が咲いている状態は知らないままだ。そこで2月中旬なので蜜源になるような花が咲いているとは思えないが、木々の様子を見るためだけでも横浪半島の樹林を歩いてみようと思い立った。

 藤岡さんと別れた後、横浪黒潮ラインを東から西へレンタカーを走らせたが、樹林の中を歩く入り口が見付けられない。海側は険しい急斜面になっていて、山側は低い崖が続く。たまに崖を切り拓いた隙間があるが、誰かの別荘なのだろうか、門があるかチェーンが架かっていて所有者がいる土地だ。

横浪黒潮ラインから竜海岸へ下る小径

 諦めかけていた時、横浪黒潮ラインが大きくカーブする陰に舗装されていない小径が樹林の中へ向かっているのを発見した。幸いにも車を停めるスペースは道路脇にある。よく見ると小径にはタイヤの跡が付いている。樹林の中に何があるのか好奇心と不安が同時に湧き上がる。カメラを持って、その小径を樹林の中へ歩き始めると、すぐ、小さな家が建っていて軽自動車が駐めてある。なんだ人の家かとがっかりしたが、小径は急に狭くなって奥へ奥へと続いている。もう少し歩いてみようと思う。

 適当に光が差し込み明るい樹林だ。ユズリハがスポットライトを浴びているように照らし出されている。緩やかな下り坂だった小径は、徐々に急坂になってきた。注意して見ると、誰かが手入れをしている小径だ。階段状に土が削ってあったり、土留めの板が打ち込んであったりする。しかし、何の案内板もない。どこへ通じているのかも分からない。それにしても誰が何のために、この小径を整備しているのだろうか。もう15分くらいは歩いただろう。せめて、この先に何があるかくらいは案内板が欲しいと、勝手なことを考える。ふっと車のロックをしていなかったことに気付く。しかし、もっと先へ行く好奇心の方が勝る。ここで引き返す手はない。小径はますます急な下り坂になる。出発した時の時間を確認しなかったので、どれ位歩いているか、正確には分からない。20分なのか30分なのか。傍らの木を握っていないと滑り落ちそうに急な坂になってきた。もう写真を撮るどころではない。心の準備も体の準備もできてないまま、結構ハードな散策になってきた。それにしても、この小径はどこへ行くのか。兎も角、行き止まりまで行くと決めた。体が汗ばんできた。

海岸へ下りる小径でヤブツバキ一輪

 突然、大きな沢の淵に出た。小径は沢の左岸沿いに緩やかに下っている。ここで初めて気付いた。この小径は海へ出るのだ。頭上が明るくなったのに気付いて見上げると、木漏れ日の中にヤブツバキが一輪咲いている。

 さらに下ると、急に目の前が開けて浜に出た。手前は砂だが波打ち際は小石の浜だ。穏やかな波が寄せては返している。小石の上に腰を下ろして打ち寄せる波をぼんやり眺めていた。「子どもがおる時には、よう釣りに来た」と呟いた藤岡さんの胸中を思う。

 後で調べてみると、私が下りた浜は、帷子﨑とツヅラ﨑に挟まれた「竜の海岸」と呼ばれている所だった。高低差は約140メートル。しかし、実感は500メートルもありそうだった。

宇佐町竜の海岸

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