ええとこ取りをしたらあかんのぞ
自宅前には古くからの蔵があり、藤岡家の歴史を伝える
蜂球(ほうきゅう)を作って冬を越した蜜蜂が活動を始める早春。それに合わせて養蜂家が仕事を始めるギリギリのタイミングで設定してもらった2月中旬の取材初日。航空便の接続が悪く高知県養蜂組合長を務める藤岡信雄(ふじおか のぶお)さん(74)のお宅へ伺うのが午後8時頃になりそうだ。遅くなると事前に電話を差し上げると、「ええよ」と藤岡さんは気さくに応え、大きな倉庫の一角にある事務室で私を待ってくれていた。藤岡さんには胸に溜まった思うところがあったようだ。夜遅いので挨拶だけと思っていたが、挨拶もそこそこに藤岡さんはゆっくりと語り始めた。穏やかな語り口だが内容は的を射て鋭い。
菜の花に蜜蜂
「若い蜂屋も居るけど、経験者に聞こうとせんね。ネットでちょいちょいと調べて、蜂屋じゃ言いよるけど、ありゃ蜂屋じゃないな。蜂屋というのは真似ばあいじゃけんね。『ええとこ取りをしたらあかんのぞ』。ぼくは愛媛の人に教えを請うたけど、その先輩から、そんな風に教えられた。教えを請う人の通りにしたら、似たような蜂ができるし、似たような(蜜の)量が採れるけど、『ええとこ取りしよったら、そうはいかんのぞ」と言われましたね」
教えられる側が自分の都合で解釈するのではなく、丸ごと真似をすることで、その師匠の作業の奥に潜む真理も含めて伝わるということなのだ。いきなり養蜂技術の核心に飛び込んだようだ。
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