狸に蓋を開けられとった
自宅近くの山でバイカオウレンの群生
どう声を掛ければ良いのか、戸惑ったまま時間が過ぎていく。藤岡さんに覇気を感じられなかったのは、頑張る目標を失っていたからなのだと、思い至る。少し離れた所で所在なく立っていると、藤岡さんが気持ちを切り替えたように声を掛けてくれた。
「去年も400缶の上、(蜜を)採っちょったけんね。7日間、毎日、搾りよったけんね」
蜂場は自宅から車で1時間余りの横浪半島にもあると聞き、翌日は、横浪半島の蜂場に案内してもらった。海岸沿いの国道から別れて農道を入った蜂場には、50群ほどの巣箱が整然と並んでいた。小さな山を背にして前面が開けた開放的な蜂場だ。
「越冬のために横浪半島に巣箱を持ってくる蜂屋もいるけど、ぼくら蜜も採るけどね。もう何年も前、正月3日やったかな。様子を見に来たら狸に蓋を開けられとったことがあったね。燻煙器も道具も持ってなかったから、近くの知り合いの蜂屋に燻煙器を貸してくれや言うて調べてみたら、蓋の下に入れてあるビニールが爪で引っかいてあったね。猪は悪いことはせんね。その年に限って集落上の蜂場でも開けられたね。冬の冷やい時はヒヨドリが蜂を捕りに来とることがあるのよ。巣門の前をトントンと嘴で叩いたら、蜂が怒って出てくるわい。それを食べよるんよ。蓋の上の糞を調べてみたら中は蜂ばっかりよ。今朝は冷やいけんかな、蜂は動いとらんね。ヒサカキでも咲いたら飛び始めるかも知れん。ここで6升、7升が3回きれいに採れるけんね」
この日の作業を終えてホッとした表情を見せる
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi