土地さえあれば生きていける
Cafeの屋外デッキでCoffeeタイムを楽しむ福岡洋典さん
初夏の清々しい風がハチミツ農園ポコトスカーナのデッキを吹き抜けていく。眼下に碧々と広がる大村湾、その手前には尾戸半島に囲まれた形上湾の海面が僅かに見え、近くには手崎地区の小さな湾に沿って民家が連なっている。古くから目の前の海で日々の糧を得てきた暮らしを彷彿とさせる集落の佇まいだ。
土曜と日曜日だけ営業しているCafeポコトスカーナは、見晴らしが良い標高178mの傾斜地に建っている。
「イギリス人が長靴履いて、犬を連れて散歩するような暮らしに魅力を感じていて、定年退職後は芋でも作って食べていければ良いかなと……。遊び小屋でも作ろうか、芋でも作ろうかと、ともかく土地があればと思って、大学の先輩から紹介していただいて、みかん畑の放棄地だったこの土地を7反買ってあったんです」
妻の由香さんが屋外デッキで片付けをする
見晴らしの良いデッキでハワイアンCoffeeを戴きながら、ハチミツ農園ポコトスカーナの福岡洋典(ふくおか ようすけ)さん(69)の話を聞いている。
「私は兵庫県明石市の出身で、妻の由香(ゆか・60)は北海道札幌市生まれ。2人とも長崎との縁はなかったんですけどね。日本航空に勤めていた時に6年間ほどロンドンで勤務していまして、実は、そこで競合する航空会社のロンドン勤務だった由香と出会うんです。ロンドンの次の勤務地が長崎市だったんです。着任後しばらくして、大学の先輩がこの上で田舎暮らしをしておられると知って訪ねると、大村湾を一望できるすばらしい眺めの場所でした。その先輩の『土地さえあれば、何があっても生きていける』という言葉が耳に残り、具体的な利用計画はないまま先輩の紹介で、この土地を買ったんです」
「話は変わりますが、長崎勤務のためにロンドンから日本へ帰って来たのは2001年9月12日でした。その前日、帰国の挨拶回りに事務所へ行くと、休憩室で同僚が立ち上がってBBCのテレビニュースを見つめているんです。最初、ツインタワービルに航空機が突っ込んでいくニュース映像を見た時、昼間から映画を見ているのかと思いましたね。アメリカ同時多発テロ事件。アメリカは全土の空港を閉鎖していましたので(飛行機は飛ぶのかと)心配しましたけど、翌日、帰国のためにヒースロー空港へ行くと、戦車が停まっているしマシンガンを構えた兵士が警備していて物々しい雰囲気でしたが、無事に帰国することができたんです」
屋外デッキから望む。新緑の芽生えが美しい
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