2023年(令和5年4月) 71号

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巣箱を神輿のように運ぶ

 この日は、前日に内検した9群の継ぎ箱を、これから始まる採蜜のために楠原蜂場へ移動するのが主な作業だ。午前8時過ぎ、洋典さんが継ぎ箱にロープを回すと、由香さんが次々と縛っていく。驚いたのは、継ぎ箱を軽トラックまで運ぶ方法だ。継ぎ箱を縛ったロープの内側に太い角棒を通し単箱の縁に掛けると、その両端を向かい合った2人で持ち上げて神輿のように運ぶのだ。軽トラックの荷台に横3列縦3列、合計9個の継ぎ箱を載せて楠原蜂場へ移動する。洋典さんが運転する軽トラックの助手席に同乗させてもらうと、ラジオから英語のスピーチが流れている。聞けば、ニューヨーク大学芸術部の卒業式で俳優のロバート・デニーロがスピーチしている録音だと言う。「中途半端な英語で死にたくないなと思って、英語教材として繰り返し聞いているんです」と洋典さん。「日常で使ってないと単語が出てこないこともあって、英語に耳を慣らすために運転中はいつも聞いてます」。長崎市コンベンションセンターから声を掛けられて、外国から長崎市に来ている若い人たちとの交流もあるようだし、佐世保の米軍基地からのお客さんもあると由香さんが言っていた。福岡夫妻にとって英語は長崎での生活に必須の言葉なのだろう。それよりも「中途半端な英語で死にたくない」に、洋典さんの向上心の一端を見た思いだ。

 洋典さんの軽トラックは、国道206号を形上湾に沿って少し北上した地点から西の山側へ坂道を上る。舗装された坂道をしばらく上った所で、左に折れ未舗装の林道へ入ると間もなく楠原蜂場に到着した。普段は使っていないようでブロックの土台は並べてあるが、巣箱は見当たらない。洋典さんが鍬を使ってブロックを整え終えると、ここでも神輿を運ぶように角棒で継ぎ箱を挟み込んで運び並べていく。継ぎ箱をブロックの上に並べ、巣門を開け終えるまでにおよそ30分。「はい、これで作業は終わりました」と、洋典さんが宣言するように声に出すと、巣箱を縛っていたロープを外して束ねていた由香さんが、巣箱に目線を送り「頑張ってね、君たち」と戯けたように声に出す。これで楠原蜂場の採蜜準備は整った。5月半ばからは百花蜜の採蜜が始まる。

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