異端であると同時に革新的
燻煙器を準備する福岡さん
「兎に角、試行錯誤。楽しみながら蜜を採って収入を得るというのもありますけど、ユーチューブで発信しながら知的好奇心を楽しむ実験蜂場って感じですかね。こうしたら、どうなるかな、よしやってみようってことです。ユーチューブで発信したら『包み隠さず自分の手の内を見せますね』と言われたけど、隠さなければならない理由はないですもんね。今は、師匠の背を見て学べという時代じゃないです。蜂の気持ちを聞けと言われてもね……」
多くの養蜂家が先代の技術を受け継ぐか、弟子入りした師匠の技術から学ぶなど、古典的な方法で養蜂技術を取得している現状の中で、養蜂研究者の技術書やインターネット情報から独自に養蜂技術を取得し実践している洋典さんの養蜂は、ある意味で異端であると同時に革新的でもある。その実践を象徴するのが、春宣言とデマリー法、それに干場法だった。もう1つは、ここでは詳しく書かなかったがダニ駆除の方法として蟻酸を使っていることだ。「外国では普通に蜜蜂のダニ駆除に蟻酸を使って論文も出ているのに、日本養蜂協会にはデータを集めて公表して欲しいと要望しているんですけどね」と洋典さんは、国内で蟻酸をダニ駆除に使用することに行政も併せて消極的な姿勢に不満があるようだ。
新しい蜂場を整地する業者と打合せする福岡さん
短い間だったが、洋典さんと由香さん夫妻と時間を共にして、新しいタイプの養蜂家が出現している実感があった。一目で気に入って購入したこの土地で、これからの人生をどう過ごそうとしているのか、と聞いた。
「後継者が居れば良いけどね。12年前にこの地域を出て行った近所の人が言っていましたよ。『ここは天国みたいな所ばってん、車の運転ができなくなったら地獄だね』って。終の棲家にはならないよ。車の運転ができなくなったら、ここに住むのは難しいですから」
福岡洋典さんと由香さん夫妻が、一目で気に入った178mからの展望の地も終の棲家ではないのだ。思い掛けない答えだった。福岡夫妻には人生の終着点を思い描くより、目の前の課題に挑戦し続ける魂のエネルギーに溢れているのだと思った。
取材を終えて見送ってくれる福岡さん夫妻
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