旅行に行っても蜂のことは分かっとる
採蜜に使った容器を淳也さんが側を流れる沢で洗う
「私、百貨店の催事に10年くらい行ったんですよ。最初は緊張して口がカラカラに乾いて、上手いこといきませんでしたね。百貨店の催事は、お客さんが求めているものを提供せないかんでしょ。蜂屋はできませんね。『採れたのを買うてや』では、やってけませんからね。若かったんで、昼ご飯抜きで頑張った時もあります。蜂屋というのは、一旦気に入ってくれたお客さんが付いたら、出店する場所を変えても付いてきてくれるという商売なんでね。実はね、私、高校卒業して3か月だけ、公務員をやったことがあるんです。かったるい仕事で、これに染まったら蜂飼いはできないと思いましたね。その頃はレンゲ蜜も採れましたからね。それから親父に弟子入りする形で養蜂の勉強を始めたんです」
採蜜が終わり遠心分離機を軽トラに積み込む
「蜂屋というのは、いかに多く蜜を採って稼ぐかだけです。巣箱の蓋を開けなくても、(巣箱の中の)状態を分からんとだめなんです。30歳過ぎの頃に、俵養蜂場の2代目、歳は私より15歳くらい上になる従兄弟なんですけどね、一緒に中国旅行に行っていた時に、同行の蜂屋に『この人は、ここに居っても蜂のことは分かっとる』と紹介してくれたことは嬉しくて覚えておりますね。蜂が仕事をし易いようにしてやることが大事で、共存しないとだめなんですよ。今ね、小学4年生の孫がいるんですけどね、この子がガッツもあるし、見込みがあるなと思っているんです。蜂飼いとしては優秀やなと思っているんです」
採蜜を前にして「蜂屋の仕事は読みが外れないんで、ワクワクしないんです」と言った健一さんの言葉が印象的だった。達観というのか、目の前の変化に揺れ動かないで、全体像を把握した上で今やるべきことに集中するその姿勢には、50年間、天気、花、蜂という人間の手では抗いようのない自然界と付き合ってきた養蜂家だからこそ到達した境地を見ているように感じる。
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