2023年(令和5年7月)73号

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蜂の居る美しい所

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 塩谷町役場の近くに玉生美蜂場の店舗はある。歴史を感じさせる店構えだ。ガラス戸を開けて店内に入ると、足下に四角く固めた厚み10センチほどの蜜ロウが15個ほど無造作に積み重ねてある。ショーウインドウには容器に入った蜂蜜が並べられ、蜜源となる花の写真が引き伸ばして額に入れて置いてあった。店舗の横はちょっとした広場になっていてロサペンデュリナ(バラ属)の花が満開だ。その奥に3段4段と空の巣箱が積み上げられ、中には蜜蜂が出入りしている巣箱も混じっている。

 「イチゴ(の交配用として貸し出していた農家)から返ってきたのも混じっとるから……」と、傍で高圧洗浄機を使って巣箱を洗っていた小野田正(おのだ ただし)さん(70)が教えてくれる。

 「親父が趣味で蜂を飼っていたんでね。12歳の時から(蜂の世話を)手伝って、面白いと思っていたんだよね。蜂を飼っていて壁に当たると、止めちゃおうかなと思ったことは何回もありますよ。でも、そこで止めちゃうと負けみたいで面白くないじゃないですか。それで壁をぶち破ってから止めようと思って頑張って壁をぶち破ると、視野が広くなって、又、面白くなるんですよ。親父が大工だったから私も中学を卒業して大工になって、大工をやりながら蜂を飼っていましたね。親父が棟梁で、職人だけで7、8人いましたよ。18歳の時からローヤルゼリーを採っていましたからね。それから50年間……。でも今はもう、目がだめ、移虫ができない。23歳の時に大工仕事で指を怪我して、それから大工は弟に任せて、私は蜂屋に専業です。地元だけでやるつもりだったから、地元の蜂屋という意味で、地名の玉生をとって玉生美蜂場(たまにゅうびほうじょう)と屋号を付けたんです。蜂場の前に美を付けたのは、蜂の居る美しい所だという気持ちですよ」

 美蜂場としたところに、正さんが志した蜂場のイメージが伝わってくる。

 「まさか息子が(養蜂を)継ぐとは思っていなかったですから……。『俺は絶対継がねえから』と、3人の子ども全員が言っていたのに、それが、いきなりですから……」

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