2023年(令和5年7月) 73号

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親父の教えが蜂を潰すな

 裕一さんが「梨畑」と呼ぶ蜂場は、巣箱が草に埋もれるように置いてあった。「(草刈りが)追い付かなくて、恥ずかしいな」と、独り言のように声に出す。蜂場の中央に大きなミズキが一本。この日の梨畑蜂場での作業は、群数を増やすために、群を割って人工王台を入れる無王群を作るのが目的だ。

 「もう、ここでの採蜜は終わりですね。クリ(の花)が散り始めて茶色くなっているような状態ですから。去年はほとんど採れなかったんです。例年の4分の1くらいでしたから……。でも、今年は去年を取り返すくらいは採れました。今年は花が早くて、それが大変でしたね。桜が2週間早くて、例年だとアカシアが6月15日から20日に咲くのですが、今年は白くなったのが5月6日ですから……」

 昨年と今年の採蜜状況を話しながら、裕一さんは巣箱の蓋を開け、2枚の蜂児枠を選ぶと、準備した別の巣箱に移していく。その際、移動した巣板に女王蜂が居れば、これから取り付ける王台が攻撃されるため、女王蜂の有無を慎重に確認していく。アカシアの採蜜が終わったばかりの群なので、まだ継ぎ箱が載せてある状態だ。女王蜂を見付けると、一旦、王籠に入れておく。

 「(女王蜂を)囲っておけば安心というのもあるんで、蜂児枠を2枚抜き出して(砂糖水を)給餌した後で籠から出してやるんです」

 抜き出した蜂児枠に女王蜂が紛れ込まないための対策なのだ。巣箱の蓋を閉める時には、丁寧に刷毛で巣箱の縁を払って、蜂が居ないのを確かめてから蓋を閉めている。

 「これ駄目な蜂だから、これ使おうと思ったら、新王に切り替わってるぽいですね。新王はまだ見つからないけど、産卵の仕方がこないだと違うんですよ」

 群の微妙な変化を感じられる裕一さんには、14年間の経験もあるだろうが、そもそも養蜂家としての素質が備わっていたようだ。

 「最近は、ぼく面布を被らないんです。刺されてもいいかというくらいの感じですかね。その方が蜂に優しくなれるというのもありますしね。親父の教えが『蜂を潰すな』なんで…

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