目が見えないだけは、勝てない
気持ちを集中するために、まゆみさんが木陰で独りになって移虫する
そこに裕一さんの弟子だという藤田嘉秀(ふじた よしひで)さん(75)も手伝いに参加してきた。元はスーパーマーケットの店長を長くしていて、その店に玉生美蜂場の蜂蜜を納品していたのが縁で藤田さんも養蜂を始めたのだ。「63歳まで私も移虫はできましたよ。目が良くないと駄目だよ。年には勝てないという奴だね」。藤田さんに呼応するように、まゆみさんが誰に訴えるともなく話し始めた。「正直、ゼリー採りはやりたくないです。目が見えないですもん。目が見えないだけはどうしようもないです。勝てないです」。まゆみさんは21歳の時に正さんと結婚した。「こういう仕事をするのは知らないで嫁いできたからね。何も思わないで来てしまったから……。お客さんとお話することで蜂蜜の反応を知って、お客さんに喜んでもらえているのが分かると、又、やろうかなと思いますね」
藤田嘉秀さんが移虫する
正さんが巣房の底まで見えるように太陽を背にして小さな幼虫を人工王椀に移虫する
移虫してから48時間の幼虫を、まゆみさんがローヤルゼリーの中から取り出すと、正さんが真空ポンプで王椀の中のローヤルゼリーを吸い採っていく。王椀の中のローヤルゼリーを吸い採ると一連の作業は終わるが、すぐに続いて、次のサイクルのために移虫が始まるのだ。それまでは3人が向かい合って作業をしていたが、移虫は集中力が要るのか、それぞれが木陰だが木漏れ日が注ぐような明るい場所に移動して黙々と移虫が始まった。裕一さんも巣箱の横に陣取って移虫に集中している。移虫が終わった王台枠を巣箱に収めて給餌を行うと、翌々日には再び、移虫後48時間の幼虫を抜き取りローヤルゼリーの採集を行う。1日置きのローヤルゼリー採集は休むことができない。精神的にも大きな負担のある仕事なのだ。
上平蜂場でローヤルゼリーを採るために王台枠を巣箱から抜き取る
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