2023年(令和5年8月) 74号

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無農薬で蜂を育てる

 巣箱を覆うように枝を伸ばした大きなクルミの木が蜂場の真ん中に立っている。手前の野原に紫色のラベンダーがパラパラと咲き、木々が深く繁る谷を隔てた先に「うちのブランドシンボルでロゴマークにしている」と言う美谷島 豪(びやじま ごう)さん(35)にとって馴染み深い飯綱山(いいづなやま・1917m)が、雲に覆われながらも2つの峰が連なるシルエットは薄らと確認できる。

 株式会社美谷島養蜂の代表、美谷島豪さんが待ち合わせの場所としてスマートフォンのメッセージで指定してきた芋川蜂場だ。民家らしき建物は周りに一軒もなく、蒸すような梅雨の熱気の中で青々と茂る草木の間を縫うように山道を上りきった峠にあった。豪さんは、この風景を私に見せたかったのだと思う。豪さん自慢の風景なのだ。

 芋川蜂場に置いてある巣箱は、スペイン製でこれまで見たことのない厚板を使用し、一つ一つが木製の台に載せられている。採蜜と割り出しが並行しているようで単箱と継ぎ箱が混在している。

 「ここの蜂場は水が弱点なんですよね。この景色とラベンダー畑があるんで使っているんですけど……。今日の作業は分割後の内検で、王台ができているかどうかの確認と、ダニのケアです」と豪さん。「分割したのが7日前なんで、王台ができてなきゃもう駄目ですよ。無農薬で蜂を育てる方法をスペイン人に習って、ダニ剤は使わないんです」。そう言い、王台の有無を見ながら、雄蜂の巣房から幼虫をピンセットで引っ張り出してダニが付いていないかを確認する。ダニは雄蜂の幼虫に取り付いて広がっていくからだ。

 内検を終えると、豪さんは巣枠の下に液体を浸み込ませた脱脂綿を置いていく。

 「エッセンシャルオイルと食用油を混ぜて脱脂綿に浸み込ませて置いておくと、ダニが落ちるんです。でも効き目が短いんですよ」。これが無農薬で養蜂を行う方法の一つなのだ。「(市販の)ダニ剤はダニに抵抗性ができて、だんだん効かなくなっている状態なんです。それで、エッセンシャルオイルと食用油を浸み込ませた脱脂綿を置くのと、蜜蜂の体内に乳酸菌を持っていることが研究で分かっていて、蜜蜂の腸活にいいだろうと思って、乳酸菌をスプレーするダブルパンチでダニの駆除をしています。ダニの処理は秋になる前にやっておかないと、秋になると盗蜂がすごくて、こんなに悠長に巣枠を上げておられないんで……。乳酸菌のスプレーは薬局で買った乳酸を使って米の研ぎ汁で乳酸菌の液体を作り6倍に薄めて使いますね。乳酸菌がダニを弱らせてくれるんで……、ダニが弱れば、後は蜂がやっつけてくれるんで……」

 豪さんが目指す養蜂の方向性が伝わってくる。

 

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