2023年(令和5年8月) 74号

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花マル王台なんで大丈夫です

 戸隠蜂場のある国有林には、トチやウワミズザクラ、ボダイジュ、キハダ、イタヤカエデなどの広大な自然林が広がっている。その一部にカラマツの人工林があり、その一角を切り拓いた広場が豪さん自慢のトチ蜜を採る戸隠蜂場だ。「毎回、ここに来る時は熊にやられていないかドキドキしながら来て、巣箱が倒れていなければ良かったって感じですよ。遠くからでもガサガサとかバサッと音がしたら、熊ですから。ここら辺は熊だらけですから」。燻煙器を準備しながら豪さんが教えてくれる。

 「ここは分割群が5群あるんで、それの内検をします」

 電柵の電源を切ると、手前の巣箱から内検を始めた。1枚1枚巣板を引き上げて王台ができているかどうかを確認する。続いて雄蜂の巣房の蓋をピンセットで壊し、幼虫を引っ張り出してダニの有無を確認する。

 「2枚目の巣板が花マル遺伝子の蜂児を入れてあるんで、本当は2枚目に王台を作って欲しかったなあ。だいたい王台は(外から)2枚目か3枚目(の巣板)に作るんですけどね」と豪さんが、私に伝えるように呟く。「これは、あの小っちゃな王台に望みを託すしかないですね」。どうやら、豪さんの思惑とは違った所に小さな王台ができていたらしい。

 次の巣箱では「2枚目にできていた王台なので、花マル王台なんで、大丈夫です」と、頷く。豪さんが認めた花マル群があって、その群から移動した蜂児の巣板には血統に対する信頼があるようだ。「蜜をいっぱい集める群なんです。でも、(採蜜のための)継ぎ箱にはしないで、予備箱というか卵の補充群として置いてあるんです。蜜をたくさん集めるかどうかは、女王蜂の血統によるんで……。この花マル群から3週間前に一度は卵の巣板を抜いたんですけど、日数が経っているんでもう一枚抜けるんじゃないかと思って……。調子の良い1軍、ノーマルな2軍、調子の良くない3軍があれば、3軍は必ず1軍から助けを出して全体が同じレベルになるように調整していますね。群勢にバラツキがあると管理しにくいので……」

 1週間前に分割して芋川蜂場から移動した5群の内検を終えると、豪さんは継ぎ箱を載せた採蜜群の内検を始めた。

 「割と良いですね。もうすぐボダイジュがわーっと咲くので、良いボダイジュの蜜を採るために、これまでに溜まっていたトチ蜜を搾って、今、空巣(からす)の状態なんです。上に蜜枠が3枚、下にも蜜枠があるんで、(蜜蜂の餌は)大丈夫なんです」

 豪さんの言葉の端々からボダイジュ蜜への期待の大きさが伝わってくる。

 内検を終えて電柵下の草をむしり取っていくと、蜂場奥の電柵下に窪みができて雨水が溜まっていた。蜜蜂の水飲み場になっているようで、数匹の蜜蜂が水面に浮かんでいる。

 「熊が掘った穴なんですよ。蜂が溺れそうになっていますね」と言いながら、豪さんが水中に手を入れ蜜蜂を助けようとすくい上げる。「あっ、刺した」と豪さん。「刺さなきゃ可愛いんですねどね」。

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