今年はもうさっぱりなんです
桂吾さんが蜜で一杯になった巣板を巣箱から引き出すと、朱里さんが刷毛で蜂を払う.
桂吾さんが巣板を継ぎ箱から引き出すと、朱里さんが刷毛で集っている蜂を払う。あうんの呼吸だ。蜜巣板の蜜の溜まり具合で、持ち帰って蜜を搾るか、巣板を3、4枚まで小さくした群の餌として単箱に入れるかを桂吾さんが判断する。時折、羽化できないまま蓋が黒くなっている巣房があると、桂吾さんが先の尖った金属棒で中の幼虫を引っ張り出して仔細に確認している。「ウイルスを持ったダニがおった場合は、群に影響を及ぼすんで確認しよるんです。鈍(なまくら)なんで、本当はもっと研究した方がええんでしょうね。蜜蜂の本を読んでも眠うなるだけで……」と、自嘲ぎみだ。しかし、桂吾さんの蜂を観る目は的確である。蜂群の卵と蜂児のある巣板を3、4枚まで小さくして給餌箱で空間を詰め、その外側に蜜巣板2、3枚を入れると「敗戦処理」の作業は終了だ。蓋を閉める直前、給餌箱に餌(砂糖水)を入れようとする朱里さんに、桂吾さんが「満タン」と呟くように伝える。すると朱里さんは「満タン」と復唱して給餌箱に餌を満たしていく。他の巣箱では「7、8分目くらい入れといてくれ」と、蜂の群勢によって細かな指示を出している。
内検が終わると、朱里さんが餌(砂糖水)を与えてから蓋をする
「今年はもうさっぱりなんですよ。例年だと蜂を割ることができるほどになっとるんですけどね。能國さんから蜂を分けてもろうて4年半弱、自分でやるようになってから1年4か月。自分で考えて自分でやるんで、気が楽かな。会社員するよりはお前に向いとるわと、友だちに言われとります。あの人が言うたから正しい、この人が言うたから間違っているというような組織の中で働くのはもう懲り懲り」
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