情熱を持って始めた訳じゃない
桂吾さんが巣板を空にかざして、巣房の卵や幼虫の
有無を確認する
温暖な瀬戸内海気候を活かした暮らしが、地域を育んできたと思わせる曽保(そほ)地区。その集落を網の目のように繋ぐ小径の一画に、吉田能國(よしくに)養蜂場の倉庫と作業場は在った。曽保地区の小径は海岸線に沿って走る県道21号線から七宝山(しっぽうざん)の頂きへ向かって上り坂が幾筋もあり家々を結んでいる。民家が途切れると、その上の傾斜地はミカン園とビワ畑だ。
「頸椎を傷めとって、今、2か月くらい作業が遅れているかな。今やりよる作業は敗戦処理みたいなもんなんですよ。ハウス栽培でタマネギの種を採るための交配に蜂を出して、戻ってきた群を越冬できるようにしよるんです。親分と一緒にやりよった頃は、マックスで1000群までいきよったです。タマネギが雑交配しないようにするのはハウスも露地も同じなんですが、合わせると400群を超えて出すんで、蜂蜜を採っとる場合じゃないんです。僕は(養蜂を)成り(行き)でやっているだけで、情熱を持って始めた訳じゃないですから……」
緩やかな傾斜地に広がるミカン園の一区画に巣箱を置いた朝日蜂場で、作業の手を休めて吉田能國養蜂場を営む吉田桂吾(よしだ けいご)さん(45)が、この日の作業内容を説明する。内検作業は妻の朱里(あかり)さん(44)が一緒だ。もう1人、桂吾さんとは20年来の友人である武智哉(たけ ともや)さん(45)は、養蜂の作業が忙しい5月から8月までの期間、自宅のある神奈川県から手伝いに来てくれている。今年は、桂吾さんの体調が思わしくないことや作業が遅れているため「例年より長い期間手伝うことになりそうだ」と、武さん。
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