タマネギに行っとった蜂
桂吾さんが春から秋まで倉庫として使っている建物を、初冬からは朱里さんの兄がミカン倉庫として使用する
翌日は、車で1時間ほど離れた蜂場で桂吾さんの言う「敗戦処理」の作業だ。約束の時間より少し早めに倉庫に着くと、蜂蜜を入れる一斗缶と並べて停めてあったスクーターが目に止まった。こだわりデザインのヘルメットが座席の上にきちんと置いてある。やがてやってきた桂吾さんに「バイクは好きですか」と尋ねると「以前、バイクレーサーをやっていました」と、又もや驚く返答。「アスファルトサーキットを走るロードレースで、国内のランクでは……」と言いかけて「草レースですよ、草レース。腰や膝にプロテクターの入った革のつなぎ服を着て走っていましたね。もう一度、レースに復帰したいなと思っているんですけどね。腹がね、ちょっと」と、腹の辺りをポンポンと軽く叩いた。
武さんがハウスから戻ってきた巣箱のロープを解く
蜂場へ行く道中は、武さんが私の車に同乗してくれることになった。この日の蜂場は「おばあちゃんとこ」と呼ぶ蜂場だ。車を走らせながら武さんから聞いたところによると、武さんと桂吾さんは、20年ほど前、インターネットゲームの黎明期に夢中になったMMORPGといわれるゲーム上で知り合った仲なのだという。オフ会と称して神奈川県から会いに来て、リアルな友人となったのだ。武さんが持っている情報量に驚く。インターネットゲームはもちろん、社会情勢、国際情勢についても、聞けばただちに解説が始まる。その上、カメラ情報にも詳しく、カメラの機種名を挙げると、ただちにそのスペックを解説し、利点欠点、コストパフォーマンスを教えてくれる。それもカメラメーカーを問わずである。聞けば、あのヨドバシカメラ新宿店のカメラ販売を長年担当していたというから頷ける。そんな話を聞いているうちに、「おばあちゃんとこ」と呼ぶ蜂場に到着した。
「タマネギに行っとった蜂です」と、桂吾さんが教えてくれる。交配用に貸し出す蜜蜂群は単箱で出荷するのが通常だが、並べられた巣箱を見ると継ぎ箱になっている。蜂場に到着すると、武さんが移動中の事故を防ぐために巣箱に掛けてあったロープを外す。その間に桂吾さんと朱里さんは燻煙器に火を入れるなど内検の準備だ。
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