毎年変わらぬ日常である幸せ
葉子さんが準備したおにぎりを頬張る利一郎さん
利一郎さんと葉子さんは、利一郎さんが重い物を持てないため2人で1組みとなって、利一郎さんが巣板を持ち上げて蜜の溜まり具合を確認し、巣箱に入れるか持ち帰るかを葉子さんに伝えている。
「今日みたいな穏やかな日が明日まで続けば、蜂はもっと落ち着くんだけど、昨日の今日でしょう。まだ落ち着いてないね」と利一郎さん。確かに、巣門の前で払われて地面に落ちた蜂は一斉に巣門を目指して移動を始めているが、空中には方向性が定まらない無数の蜂が羽音を立てて乱れ飛んでいる。
「おっ」と、利一郎さんが小さな声を出す。巣箱の蓋の上の小さな蜂の塊の中に女王蜂が混じっているのを見付けたのだ。蜂の塊の中から女王蜂を取りだして、巣門に入ろうとしている蜂の群れに紛れ込ましてやった。もし、巣門の反対側に落ちていたとすると、女王蜂は元いた巣箱に辿り着けないのだ。
巣板から払われた蜂が巣箱に戻ろうと巣門に密集する
「それさ、やってみろ(その巣板を、こっちに渡してみろ)」と利一郎さん。
「軽いよ、これは(この巣板は軽いから、蜜は溜まってないよ)」と葉子さん。
蜜の溜まった巣板を選んでいる時の2人の会話。長年、二人三脚で蜂の世話をしてきた利一郎さんと葉子さん夫妻の阿吽の呼吸が伝わってくる穏やかな時間だ。
「利憲は、ゆうべ10時に八戸に着いたって」と、利一郎さんが教えてくれた。
昼ご飯の時間になった。葉子さんが作ったおにぎりを利一郎さんが美味しそうに頬張っている。毎年変わらぬ移動日翌日の決まった昼食だ。初代万吉さんから約80年間、家族で紡いできた平養蜂場の歴史は4代目竜馬さんへ更に引き継がれようとしている。平凡かも知れないが、毎年変わらぬ日常が繰り返される。これ以上の幸せがあるだろうか。
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