2023年(令和5年12月) 76号

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肩が上がんねえから館山に来い

 朝になって降り出した粉雪が薄らと道路に積もり始めていた。有限会社平養蜂場の3代目平利憲(たいら としのり)さん(55)は、運転していた乗用車を青森県三戸郡五戸町の山中、杉林横の農道に停めた。後には、運送会社の4トントラックとワゴン車が続いている。

 この日は平養蜂場の本拠地である青森県五戸町が本格的な冬を迎える前に、蜜蜂を越冬させるため巣箱約350箱を千葉県市原市の拠点に運び出す日だった。蜂場へ向かう途中、車の中で利憲さんが平養蜂場を継ぐことになった経緯を教えてくれた。

 「万吉と言いましたけどね。うちの祖父さんから養蜂は始まりましてね、私で3代目。でも私は祖父さんと蜂の仕事を一緒にしたことはないです。私は高校を卒業して1年だけ北海道の専門学校へ行ったんです。そこで測量の勉強をして、そのまま北海道で測量の仕事をしていたんですよ。ただ、就職する時に採蜜の時期の4月から6月までは休ませてくれと頼んで、それを会社が受け入れてくれたんで、採蜜の時は2代目になる親父を毎年手伝っていましたよ。そのように親父を手伝っていけば良いだろうと思っていたんです。それが突然、蜂を越冬させるために千葉県にいる父親から『肩が上がんねえから館山(市)に来い』と電話があって、急遽会社から休みを貰って館山に行きましたよ。それが養蜂を継ぐ切っ掛けになりましたね。昭和天皇が崩御した年に会社を辞めたかな」

 「それから34年間、春ね、自分で作った王台に(幼虫を)移虫して、新しい女王蜂が生まれたかどうかを確認して、それから10日ぐらいして、ちゃんと交尾できたことを確認できると、ああ、これで今年もちゃんとやれるなと思えて嬉しいですね」

 平養蜂場の責任者として経営を安定して維持できる喜びと共に、新しい生命の誕生を確認できた純粋な喜びでもあるのだろう。

 

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