60群まで越冬できた
取材を終えて帰ろうとする私を見送ってくれる高井夫妻
石川県加賀市潮津町の「森のくまさん」に孝徳さんを訪ねたのは3月下旬。桜の開花が予想される時期なのに天候が不順で気温は上がらず、明け方には小雪が降るような日だった。蜜蜂は、越冬明けで建勢(採蜜に向けて蜜蜂の数を増やす)の時期だが、内検さえ躊躇するような寒さだ。
「上手くいかなかったら、冬の間はアルバイトでもしようと思って3年前に一人で始めましたけど、最初の年から(蜂は)越冬ができたんで、ま、3群でしたけど……。それで越冬の技術も分かってきて、今年は60群まで越冬できたんです。越冬群が増えれば、マイナスがプラスになるんですから。やっと去年で蜂屋になってきたんかなあと思えるようになりました」
雪の舞う浜佐美蜂場で、「ここは去年の新王群で固めてあるんですよ」と孝徳さん
陽は差すが厚い雲が空を覆う朝。「蓋を開けるのはできないけど」と案内してもらった海辺に近い浜佐美(はまさみ)蜂場で、ちょっと安心した様子で話す孝徳さんだ。
「越冬群が増えれば、マイナスがプラスになるんですから」は、つまり、越冬に失敗すると、春の採蜜期に蜜蜂が居ないことになるため、他の養蜂業者から蜜蜂を購入して採蜜をしなければならない。しかし、越冬に成功すれば蜜蜂を購入する費用が必要ない上に、越冬した蜜蜂の数を採蜜期までに増やす(建勢)こともできるのだから大きな差が出てくるという意味である。
「ここは去年の新王(の群)で固めてあるんですよ」と浜佐美蜂場で説明を聞いている時、小雪が舞い始めた。巣箱の上や周りにパラパラと細かい雪が積もり始めた。内検どころではない。孝徳さんは苦笑いだ。
「ここらはソメイヨシノが終わってから山桜の花が咲くので、桜(の蜜)が入っている群を山の蜂場へ持って行ってウワズミザクラの蜜を搾り、それからもう一度、連休明け頃に、ここに戻ってアカシアの蜜を採る流れですね」
彼岸を過ぎたというのに浜佐美蜂場に雪が舞う
軽トラックに同乗させてもらって、同じ浜佐美にある少し離れたもう一つの蜂場に移動した。
「ここは旧王群が置いてあるんです。2段で越冬させた群数が多かったんで心配していましたけど、これは(巣板)9枚にしっかり(蜂が)居るんで中が暖かいんです。雪が降っても出ようとしていますよね。蜂数が多いと温度をキープしてくれるんで、越冬しやすいんじゃないかなと思っているんですよ。越冬で一番の敵は気温よりダニですね。ここの蜂場は赤眼女王の血統が多いんです。赤眼女王は温和しいですね。産卵も良いですね」
小雪はみぞれに変わって降り続く。突然、陽が差してきた。巣門の前に小さな赤茶色の葉を伸ばしたヒメオドリコソウを見付けて「これが生えてくると、もう春なんで……」と、孝徳さんが嬉しそうに呟く。
「基本的には一週間に一回内検すれば良いんで、今の群数なら週3日は休めますからね。桜が咲いたら、すぐ分封したがるんで大変なんですけど、生き物なんで人間があんまり手を掛けないでいいかなと思っているんですよ。出て行きたいものは(分封する蜂は)もう仕方ないです。段取りさえしておけば、子どもとの時間も持てるし、体が元気であればいつまでもできるじゃないですか。養蜂は良い仕事だと思いますね」
特別な越冬対策をしないでも3年目にして60群が越冬できたことは、「養蜂でやっていける」という孝徳さんの自信になっていると感じた。
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