採蜜群に気持ちを集中
天候は回復する予報だったが空は雲が覆う。心配そうに店内から外を窺う孝徳さん
翌朝10時に、近くの梨農家が交配用蜂の打合せで訪ねてくることになっていた。まだ会ったことのない梨農家のためか、孝徳さんは少々緊張気味だ。約束の時間を少し過ぎて梨農家の加端大樹(かばた だいき)さん(26)がやって来た。梨の開花時期の予測や交配用蜜蜂のレンタル料など簡単な打合せをした後、巣箱を置く加端さんの梨園を下見に行くことになった。軽トラを2台連ねて走り10分足らずで梨園に到着。緩やかな斜面に腰を屈めて歩くほどの高さで梨の枝を水平に伸ばした梨棚は20アールの広さだ。腰を屈めて棚の下を歩いた孝徳さんと加端さんは、この広さだと1箱(群)約2万匹で交配は大丈夫と互いに納得したようだ。梨園の方角を確かめて、巣箱を置く位置と巣門を向ける方向を確認した後は、開花時期の状況を連絡し合うためにお互いのLINEを交換している。梨園の下見は5分ほどで終わった。
帰りの軽トラを運転する孝徳さんが安堵の表情を浮かべている。朝の内は怪しかった天候だったが、青空が広がり気温も上がってきている。昨日は巣箱の蓋を開けることもできなかった旧王群が置いてある浜佐美蜂場で、越冬明けの蜜蜂を内検することになった。孝徳さんは赤眼女王を私に見せたいらしい。燻煙器を準備し、面布と一体になった迷彩柄の防護服に身を包んだ孝徳さんは、最初に赤眼女王の居る巣箱の蓋を開けた。
店内で梨農家と交配蜂の打合せをする孝徳さん
「なるべく自然の状態で越冬させるようにしているんです。その方が越冬の餌も食べてくれるんですよ。あっ、居ましたね」と孝徳さんが示す巣板に、働き蜂より赤っぽくて腹が長い女王蜂が群の中を歩き回っている。レンズを向けて動きを追うが、なかなかピントを合わせられない。「腹の大きい女王蜂ですね、腹が大きい」と、孝徳さんが弾んだ声を出す。腹の大きな女王蜂は産卵が盛んだと言われているからなのだが、孝徳さんの期待が伝わってくる。
「巣板を5、6枚で自然の状態で越冬させたら、4枚くらいまで(蜂数は)減ったんですけど越冬はできました。しばらくしたら元の状態まで増えていたんで、自然の状態で越冬できるんだと分かりましたね。でも、ダニが居たと思う群は駄目でした。8月末に採蜜が終わった段階でダニ剤を入れて、越冬明けで産卵する頃にもう一度ダニ剤を入れてやるんですけど、越冬する前にダニ剤を抜いてやらないとダニに耐性ができるんで注意が必要なんです。越冬する前と後はダニ剤が効きやすいと思いますね。現在の養蜂の考え方としては、リスクを回避するために頭を悩ますより、マイナスが出たとしても、それを取り戻す方法をやって前向きに対処する方が悩まないで済むし、無駄な対応もしないで済みますよね。そういう蜂なんだと割り切って、本来大切な採蜜群に気持ちを集中することの方が大切。人生とも共通しますよね。やることをやって駄目なら仕方ないと割り切るしかないですよね。これ埼玉の野々山さんと出会ってからの考え方なんです。野々山さんと出会ってなければ養蜂はやってないかも知れない。それほどのターニングポイントになったんですよ。彼と出会って考え方が変わりましたもん」
加端大樹さん(左)の梨園を一緒に下見して交配蜂の打合せをする
越冬を終えた群に居る赤眼女王蜂(画面中央右寄り)
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