2024年(令和6年6月)78号

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今の話を本に書け

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 「玉川大学の教授職は5年間で定年退職して、その後は名実共に養蜂家なんです。だから、今回のように養蜂家として取材をしてもらえるのは嬉しいですね。養蜂家としての基本技術は持っていると思っていたので、蜂を飼うからにはということで埼玉県養蜂協会に入らせてもらいました。玉川大学を定年退職した後の2013年から国際農林業協働協会(JAICAF)の依頼でモンゴルに行って養蜂技術を教えていましたので、埼玉県養蜂協会で『モンゴルの話をしてくれ』と頼まれましてね、少しだけ養蜂技術の話をしたらピタッと話が伝わったんですよ。そうすると『今の話を本に書け。日本の養蜂が変わる』と取り囲まれて説得されましてね。私は玉川大学の研究室を追い出されるようにして高校教師になり、研究を続けていましたからね。ずーっとトンネルの中にいたような気持ちだったんですよ。それが『本を書け』でしょ。そんなことで、あの『蜜量倍増 ミツバチの飼い方・これでつくれる額面蜂児』の本が出来て、一気に世界が広がりました。すると熊谷養蜂が私の書いたビースペースの大切さを理解してくれて、巣板の間隔が8ミリになる木製の三角駒を作って養蜂家に配ると、これは良いとなって次にはプラスチックの駒を作ったんです。35年間横道を歩いてきて……、横道かどうか分かりませんけど……、苦しかったけど楽しかった。モンゴルに行く2013年頃から本道に戻ってきたという実感がありますね」

 さて、博士号を取得した干場さんの論文「ハチ目昆虫の細胞遺伝学」は、何をテーマに研究発表したのだろうか。

 「蜜蜂の染色体に関する論文なんです。一般的に無精卵から雄蜂が誕生することは知られていますが、受精卵からも雄は誕生するんです。ただ、生まれてすぐ食べられちゃうんです。受精卵から生まれた雄に16対32の染色体があるのを確認したのは私なんです。これが私の研究の核心なんです。誰にでも何処ででもできる研究だけど、自分にしかできないテーマとして染色体を研究テーマにして35年間、高校の教員をやりながら蜂を飼うことを許してもらって、誰も文句を言う人はいなかったですから、恵まれていましたよね。日本にいるマルハナバチの全種を飼育して染色体を見ました。染色体上にある性を決定する遺伝子がaaは雄、abは雌になりますよね。aaaは雄でaabは雌になります。この三倍体の研究をマルハナバチでやったんです」

 このような話を聞くとやはり、干場さんは養蜂家というより研究者なのだと思ってしまうが、「養蜂の基礎技術は地球上のどこでも共通する」と話す干場さんは、「養蜂家の心は忘れてはいない」と強調している。

 「私が最初に教えてもらったのはとんでもない人だったと、今になって改めて有り難いと思いますね。花が咲いて採蜜のピークになる2か月前から養蜂はスタートするんだよ。卵から3日で幼虫になり、6日で蛹になって21日目に羽化して成虫になれば、その後、内勤蜂として3週間巣箱の中で働き、卵から6週間でようやく外勤蜂となって花蜜を採りに行く。そこを狙って建勢給餌(刺激給餌)を始めるんだと、最初にむさし蜂園で教えられたんですよ。それと同時に、『面布、手袋はするな。刺されても動くな』ということも言われましたね。蜂児、内勤蜂、外勤蜂が常にバランス良く居る群を作ることは、養蜂技術の基礎なんです。それで私は、普通の研究学者とは違う『蜂が飼える学者になる』と思い続けていました。だからこそプロの養蜂家ならば私の話を一発で分かってもらえるんです。最低限しか蜂は飼っていないですけど、養蜂家として実践家であり続けたい、養蜂家魂は持ち続けていたいと思っているんです」

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