あれっ、これアワフキムシの巣だ
花粉団子を両脚に付けて巣箱に戻ってきた働き蜂
翌朝、約束の時間前に干場さんの花園を撮影していると、干場さんもカメラを持って現れた。干場さんも蜜蜂の写真を撮ることに熱心なようで、カメラの機種や機能の知識は私より豊富のようだ。お互いに足下の小さな花やダイコン、クリムソンクローバーの花蜜を採りに来ている蜜蜂を撮影していると、干場さんが独り言のように教えてくれた。
「秋になると、この草むらでカンタンがリリリリ……って、すごくきれいな声で鳴くんですよ。色々な生物が生きられる場所がないといけないと思っているんですよ。ネオニコチノイドが使われるようになって、川の昆虫がいなくなって、その影響で川の魚がいなくなったんですよ。もちろん一つだけの原因ということではないかも知れませんが、大きな影響があったことは否定できませんね」
干場さんは参加者が巣板を引き上げる様子を見守る
事ある度に干場さんが口にされることで、ネオニコチノイド系農薬に対する干場さんの拒否感が強いと伝わってくる。その根底には蜜蜂に限らず小さな生命に対する愛情があるのだ。ひとしきりお互いに花園の撮影をした後、干場さんが玄関脇の庭で摘んだハーブを淹れたティーをご馳走になっている時「あれっ、これアワフキムシの巣だ。最近は、昆虫を見ることが少なくなっていて、久し振りに見ました。カメムシ目の昆虫で、この泡が幼虫の巣なんですよ」と、テーブル横の植物の葉に付いた小さな泡の塊を指差して教えてくれる。「学者と言われるより養蜂家と言われる方が嬉しいです。蜂好きのおじさんであることには間違いないですね」と、庭の茂みで営まれる昆虫の生態に目が行ってしまう言い訳のようなことをボソッと口にする。しばらくすると、妻の恵美子(えみこ)さん(64)もティータイムのテーブルに加わった。「保護犬を2頭預かって飼っていましてね。昨夜、粗相をして……」と物干しにシーツが干してある。恵美子さんも中学校の理科の教師として勤めていたとのことだ。おふたりの馴れ初めは聞きそびれたが、保護犬を預かっていることでも分かるように、生き物への愛情の深さがおふたりを結んだのだろうと想像してみる。
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