2024年(令和6年7月)79号

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働き蜂が女王蜂の産卵を制限

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 昼ご飯にはニセアカシアの花の天ぷらを戴き、午後からは豊さんと林房江(はやし ふさえ)さん(53)と原澤圭子(はらさわ けいこ)さん(51)の3人が蜜巣板を回収に行くのに同行した。まずは蜜巣板を抜いた後に補充する空巣(からす)を採蜜工場で軽トラに積み込む。最初に向かったのは「タケヤブ」と呼ぶ蜂場で、両側に竹林が迫る緩やかな坂道になっている。片側は崖だ。ここに7群の巣箱が置いてあった。竹林に囲まれた細長い斜面の蜂場は薄暗く、これまで見てきた蜂場とは印象が違っている。坂の下の広場に軽トラを停めた林さんと原澤さんが、空巣の入った継ぎ箱をキャタピラの付いた台車に載せて坂道を上がってくる。なるほど、これなら坂道でも安定して巣箱を運べると感心して見ていると、豊さんが「養蜂業は力仕事が多いので女性の養蜂家は少ないんですが、道具を工夫すれば女性も仕事に支障はないですね」と、2人の働きぶりを評価している。

 ところが、豊さんが傾斜の一番上に置いてあった巣箱の内検をしていると、「アアッ」と小さな声がした。空巣の入った継ぎ箱を運んでいた台車が右側の斜面に落ちてしまったようだ。幸い空巣も巣箱もすぐ近くの竹に引っ掛かって大ごとにはならないで済んだ。

 3人のバトンリレーで斜面に落ちかけた空巣の回収を終えると、再び、豊さんは単箱の内検に戻った。「寒さのせいなのか理由ははっきりしませんけど、働き蜂が女王蜂の産卵を制限していて、額面蜂児にならないですね。今年は他の地域でも同じ傾向があるようですね。中には額面蜂児になっている巣板もあるんですけどね。普通だったら今の時期は、隔王板の下全部、額面蜂児になっているんです」と、額面蜂児になっている巣板を巣箱から引き上げて見せてくれた。「いつもだったら今の時期の内検は、分封を防ぐために王台ができているかどうかを確認するんですよ。今年は王台が全然できてないです。蜂が元気ないですね。分封するような勢いがないですね」。こう説明しながら内検をしていた豊さんが「房江ちゃん、巣礎お願いします」と林さんに呼び掛けると、「はいッ」とすばやく明るい返事が返ってくる。林さんと原澤さんが活き活きと働いている様子が返事一つで伝わってくる。「お二人は仲が良いですね」と声を掛けると、「私たち姉妹なんです」と林さん。なるほどチームワークが良い訳だ。続いて豊さんから声が掛かる。「房江ちゃん、働蜂卵お願いします」。すかさず「はいッ」と林さんの気持ちの良い返事。「働蜂卵の巣を入れるんですよ。(働蜂卵の巣房は乱れているので、それを)掃除させるためなんです」と、豊さんが私に説明する。

 4つめの巣箱を内検している時だった。「嫌な予感がする。これは無王だな」と、豊さんが呟いている。「あっ、王が出た跡がある。処女王は絶対いるわ。処女王出た、未確認と書いといて……」と豊さんが、蓋の上に群の情報を記入するように林さんに伝える。

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