玄関前に巣箱が一箱
金子さんが遠心分離機で搾った蜂蜜を漉し器に入れる
この日、午後からは小林養蜂園の3代目を務めることになる小林周(こばやし しゅう)さん(36)と籏福美紀(はたふく みき)さん(45)が、片品川の川べりに置いた巣箱を内検するのに同行した。一列に並べられた巣箱の周りはニセアカシアの大木が満開の花房を垂らしている。これではアカシアの花蜜以外は入りようもないと思えるほどだ。
「榛東(しんとう村)と渋川(市)から引き上げてきて、先週あたりから片品川周辺の採蜜を始めましたね。他にも蜂場はありますが、自分の担当は榛東、渋川なんで……。ここの蜂は月曜日に渋川の方から持って来た蜂なんで、移動してきて初めて見ているんです。週末には蜜を搾ります。今日の主な作業は王台ができていないかを確認することですね」
採蜜工場に蜂場から持ち帰った蜜巣板は理想的とも言えるほど全面に蜂蜜が溜まっていた
こう説明した後、周さんは黙々と内検を始めた。周さんの作業はゆっくりと丁寧で静かだ。同じような動作を繰り返す。時折、六角形の巣房の底を覗き込むように巣板に目を近づけたり、覗き込みたい巣房の前に蜂が居たりすれば「フッ」と息を吹き掛けて蜂を移動させたりしている。緊張感が漂い声を掛けるのも憚(はばか)られる。
「今年は例年より少なくて全体で600群弱ですかね。社長を含めて4つの班で動かしています。花の咲き具合が毎年ちょっとずつ違っていて、なかなか読めなくて……。班の体制が始まってから今年で3年目。渋川の利根川でしっかり採って、片品川でも採るというのが私たちの班の使命ですね。アカシア蜜がなければ、うちの養蜂は成り立たないですから……。春の採蜜をしっかりやって、秋の越冬対策でいかに上手く蜂を増やしていけるかが養蜂の技術だと思っていますから……」
「うちの養蜂の始まりを聞いていますか。祖父の市郎のところに祖母のえい子が嫁に来た翌朝、玄関前に巣箱が一箱置いてあったのが小林養蜂園の始まりなんです。祖母の父親からの贈り物だったんですよね」
「私がこっち(沼田市利根町)で暮らし始めたのは10年ちょっと前かな。来月は子どもが生まれるんです。現場に出てくれるスタッフが高齢化しているので、若いスタッフが増えて欲しいですね。自分より年下のスタッフは一人だけですから……、60歳超えの人が多いですからね」
高橋敏夫さんが蜜巣板を遠心分離から取り出す
透明度の高いアカシア蜂蜜が遠心分離機から流れ出る
採蜜工場で蜜蓋を切る包丁を温める和田保さん
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