2024年(令和6年7月) 79号

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ちょうど美味しい糖度ですね

 翌朝は、午前8時から採蜜工場が動き始めた。工場責任者の金子さんの他に、金子さんの同級生で土木建設現場監督の仕事をしていた星野敏男(ほしの としお)さん(70)と冬期はスキーのインストラクターをしている高橋敏夫(たかはし としお)さん(69)が採蜜工場の担当だ。星野さんと高橋さんがそれぞれ遠心分離機を担当し、蜜蓋切りから蜜巣板の出し入れも1人で行っている。金子さんが2台の遠心分離機の間を行き来し、搾った蜂蜜を濾過器に移しながら蜂蜜の品質管理を担当している。昨夕のうちに運び込まれていたブルーベリー蜜の採蜜が始まって、最初に遠心分離機から流れ出たブルーベリー蜜を金子さんが糖度計で測る。

 「79度、ちょうど美味しい糖度ですね」と、私に知らせるように声に出す。「今年はほとんどダニはゼロです。ダニ対策が一番難しいんですよ。ダニトラップが今年は上手くいっているんでしょうね」。金子さんが得意顔だ。蜂蜜の雑味を取り除くために段階的に細かい目の漉し器で4回濾過している。

 遠心分離機に掛けて蜜を搾り終えた蜜巣板一枚一枚に高橋さんが除菌のためにハセッパー水(高精度次亜塩素酸水)を噴霧している。蜜蓋を切っていた星野さんが何かを口に放り込んだ。「今の何だったんですか」と尋ねると、「ローヤルゼリーが……、酸っぱくて……」と星野さん。

 ブルーベリーの採蜜が終わり、次の蜜巣板が入った継ぎ箱がビニールカーテンの内側に運び込まれた。直ちに高橋さんが蜜蓋を切り、遠心分離機にセットしていく。

 「これは(片品川の)河原のアカシア蜜で一番きれいですね。どうしても少しは他の花の蜜も混じるんですけど、河原のアカシア蜜はきれいですね」と、遠心分離機から流れ出る透明感のある蜂蜜を漉し器に移しながら金子さん。「うちのお客さんは優秀なんですよ。『アカシアとして買ったけど、違う香りがするんですけど』と連絡を頂いたりすることもあるんです。そういう場合は『花の時期が重なって他の花の蜜が混じってしまうこともあるんです』と事情をお話して、希望される場合は交換させていただくんです。そうするとリピーターとして残ってもらえますね」

 次に採蜜工場に運び込まれたのはヘアリーベッチの蜜。「レンゲが採れなくなったので、その替わりに3年前からあっちこっちに種を蒔いたんですよ。それがようやく採れるようになりましたね。クセがないでしょう。でも、まだ花の名前が知られてなくて……。もう数年前からレンゲは畑に蒔かなくなっちゃったんですよね」

 金子さんは花蜜の種類が変わるたびに糖度計で糖度を測り直している。採蜜工場内は遠心分離機の回転音がゴッゴッゴッゴッと小さく聞こえるくらいで、作業をしている金子さんと高橋さん、星野さんの3人が会話を交わすこともほとんどなく、静かで淡々とした時間が流れている。

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