生産技術部に定年まで
簗場養蜂場のすぐ近くには御所湖が広がり自然環境に恵まれている
微かにさざ波が立つ御所湖に突き出した細長い岬の先端に簗場(やなば)養蜂場はある。御所湖は雫石川を堰き止める御所ダムによってできたダム湖だ。自宅裏の蜂場で内検を進めていた代表の簗場孝一(やなば こういち)さん(69)が、蜂場の駐車場に私の姿を見付けると、面布を外してゆっくりこちらへ向かって来た。簗場さんの顔一面に汗が噴き出している。岩手県岩手郡雫石町とはいえ、酷暑とまで言われた今年の夏の暑さだ。蜂場の敷地全面にシートを敷き詰め、搬送用パレットを置いた上に巣箱が4段まで積み上げられて2群ずつ整然と並ぶ。巣箱の上に波板タキロンを被せ、4段になった1群ずつをベルトで止めてある。簗場さんの仕事へ向ける姿勢が、蜂場の佇まいから伝わってくる。
簗場養蜂場は巣箱の下にシートを敷き詰め、作業はテントの下で行う
「私ね、時計メーカーの生産技術部に定年まで勤めていたんです。製品のあらゆる品質、コスト、納期といったところを追求する職場なんです。例えば品質管理に5秒掛かっている1つの製品をどう4秒に詰めるかを追求するんですね。会社に勤めていた時のように効率の良いことを考えなければいけないので、蜂場全体にシートを敷いているのは、草刈りをしなくて良いことと、蜂の死骸が情報をくれるんです。蜂の死骸に翅の縮れたのがあれば、ダニがいるなと分かりますよね」
蜂場の入口近くで早速の立ち話だ。
3時の休憩時間に面布を取ると顔一面に汗
「44年前に結婚して、ここ(簗場家)に入ってきて、私の実家の親父が自家消費目的で蜂を飼っていまして、1999年かな『お前も蜂を飼え』と言われて、『やればいいじゃ』『自分で搾ればいいじゃ』というようなことを言われて、一群貰って、2枚掛けの遠心分離機を5万円で買ったんです。蜂を貰ったはいいけど、ダニにやられて越冬ができなかったんです。それを殺したとは親父に言えなくて、3、4年は蜂を駄目にしては買い続けたかな。5年くらいは試行錯誤していて、その後の5年ぐらいは自分で何とかできるようになったかな。今思えば、親父も詳しいダニ対策は知らねかったなと思うけど、何より(親父には)聞きたくねかった。今だったら、ダニを制したら勢いの良い蜂を作れると完全に分かっているんですけど……」
蜂場の近くでノシメトンボ
Supported by 山田養蜂場
Photography& Copyright:Akutagawa Jin
Design:Hagiwara Hironori
Proofreading:Hashiguchi Junichi
WebDesign:Pawanavi