2024年(令和6年8月) 80号

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チャンピオンが産んだ幼虫

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 翌朝は、簗場さんの運転する軽ワゴン車に同乗させてもらい乙部養蜂場へ向けて午前9時に出発。走り出すとすぐ御所湖湖畔に(特定外来生物の)アレチウリの蔓が茂っているのが見える。「この辺一面にアレチウリがすごいですよ、花は9月中旬かな。越冬の蜜源。今、蜜が入っているのに8月に花が切れるんで、(今入っている蜜は)そのまま入れておかないと……」。簗場さんの頭の中は、周りの花の開花状況と巣箱内の蜜の過不足が常に連動しているようだ。

 乙部養蜂場に到着すると、盛岡市近隣の養蜂仲間7人が自宅前に建ててある暑さ避けの簡易テントの中で四方山の話をしていた。「岩手日報に載っていたけど、ホヤが全然だめなんだって、三陸で伊勢エビが獲れるっていうだもん」「猪の入った田んぼの米は農協が引き取らないってよ」「猪が増えたら大変だよね」。そんな中で簗場さんが今指導を受けている君塚さんに養蜂を教えたという大先輩の村上正さん(71)に相談するように自らの計画を伝えている。「来年は(蜂を)山に持って行って、ゴールデン種どうしで掛け合わせて、純血にしようかと思ってね。今年は雑種だけどね」。簗場さんのゴールデン種への拘りが伝わってくる。

 簗場さんが乙部養蜂場の蜂場へ向かった。続いて君塚さんの長男の君塚雅裕(きみづか まさひろ)さん(36)が蜂場へ向かう。乙部養蜂場は一般的な蜂場のように開放的な平地ではなく、細長い廊下に屋根を架けた木製の建物が向かい合わせになっている。その間の空間にはモミ殻が敷き詰めてある。その一画に、移虫する前の人工王台(王椀)を働き蜂に「舐めさせて」馴染ませるために入れてある簗場さんの巣箱が置いてある。この日の目的は、君塚さんが「これが良いよ」と言ってくれたゴールデン種チャンピオンの女王蜂が産んだ卵の幼虫を移虫することだ。

 君塚さんが選んでくれたチャンピオンの巣板を雅裕さんが懐中電灯で照らし、巣房の奥の幼虫の状態を確認する。「産卵して1日目は巣房の底で卵が真っ直ぐ立っているんです。2、3日目になると少し斜めに倒れて、4日目には孵化して幼虫となります。移虫するのに丁度良い4、5日目の幼虫は緩いカーブを描いて横になっていて、6日目になるとCの字のような形になって、こうなるともう遅いんです。ちょっとカーブを描く頃の幼虫を移虫すると、結構着いてくれるんです」。雅裕さんが移虫するための幼虫を見極める目処を教えてくれた。

 移虫した後、10日ほどして簗場さんは移虫した人工王台を入れた巣箱を取りに来る予定だという。簗場さんは、このようにしてゴールデン種の女王蜂を増やそうとしているのだ。

 雅裕さんの年齢は若いが盛岡市にある大手の養蜂場に7年間勤めていたベテランだ。雅裕さんが移虫に最適な幼虫の居る巣板を明るい蜂場の外へ持ち出して、移虫針を使って人工王台へ移虫を始めた。そんな雅裕さんを横で頼もしそうに見ていた父親の忠彦さんが私に話し掛ける。「俺に見えているのは(幼虫が)大き過ぎって言われて、俺には絶対見えねえっていうのが(移虫には)良いって言うんだ。俺らにはもうできねえよな」。そう言いながらも、忠彦さんはどこか嬉しそうだ。

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