2024年(令和6年8月) 80号

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蜂も面白い修理も面白い

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 この日、午後から何群の内検ができただろうか。簗場さんの内検は、テキパキというよりじっくり蜜蜂群の様子を観察しながら進めるやり方だ。翌日も簗場さんが内検を続ける近くで、その様子を見せてもらった。

 蜂場を歩いていると、巣箱の蓋の真ん中にネジ止めされた金属線が2本出ているのに気付いた。「蓋にセンサーを付けて、巣箱内の温度を測っているんですよ」と、簗場さん。「熱電対用ニッケル合金でアルメル線とクロメル線の端子をショートさせると、その箇所がセンサーになるんです。産卵している時は36℃、産卵が止まっている時は22℃〜25℃になりますね」。簗場さんがテストリードの赤と黒の端子を2つのネジ山に当てると、テスターのデジタル表示が033.4℃の値を示した。「産卵していますね」と簗場さんがちょっと得意顔だ。

 最初に簗場蜂場を見た時、その佇まいの端正さに独特の雰囲気を感じた。それは、簗場さんが生産技術系の会社に定年まで勤めたことと切り離せないだろう。取材中に簗場さんが何度も口にした「蜂も面白いし、機械、電気の修理も面白い」という言葉に集約されている。当然のことだが、蜂の飼い方も論理的で合理性を追求する生産技術系の考え方が反映している筈だ。ところが養蜂全体の考え方は生産技術系なのだが、簗場さんが内検している時、生産技術系の考え方にとらわれない意外な発想で蜂を見ているのに気付かされたことがある。

 内検では4段と3段の継ぎ箱の中は蜜巣板なので横に降ろし、2段目を見て1段目の産卵の状況を見るのが通常の流れだ。ある巣箱を内検している時、肝心の女王蜂が見つからない。1段目と2段目をもう一度確認しても見つからない。しかし、卵はある。産卵は続いているのだ。念のためにと、3段目を探すが見つからない。4段目を探す。本来居る筈のない4段目に発見。簗場さんは隔王板を使わないため、あり得ないことではないが、珍しい。

 「普通は居ない女王蜂が4段目に居るということは、ここまで蜜を運び上げている働き蜂を労ってやろうとしているのかなと、私が勝手に想像しているんですけどね」

 この時、簗場さんが取材初日に私に言った「蜂をとるか、蜜をとるか」の言葉は、養蜂経営の技術論ではなく、簗場さんの蜂に対する心情に根ざした方法論なのだと理解した。

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