来春までの餌を採ってくれ
煙を噴き掛けられ慌てている働き蜂
「ここは、すごい環境に恵まれている所。探そうとしても、これだけの条件の良い所はなかなかないと思うんです。岩手山がきれいに見えるんですよ。岩手県民にとっては、ああ、(我が家に)戻ってきたという存在ですよ。私は、ここから10分くらいの滝沢村(現・滝沢市)で生まれたんですが、実は私も長男なんですよね。同じ職場だったカミさんと結婚して入った簗場の家では、カミさんの兄になる人が亡くなっているんです。同じ孝一という名前だったんで、簗場の両親が『息子が帰ってきた』と言って迎えてくれたんです」
採蜜は基本的にトチとアカシアが終わればしない。その後の蜜は越冬用の餌となる
いきなりだった。耳元で羽音が聞こえたと思った瞬間、私の後頭部にズンとした痛み。無意識に手で払いのけようとして別の蜂を刺激したのか、続いて右耳の後ろを刺された。蜂場に到着したばかりで、面布は着けていない。簗場さんが私の後頭部を見て「毒袋が残っているわ」と呟き、取り除く。「ごめんなさい。私の蜂です」と簗場さんが謝ってくれる。更に、私を狙って飛ぶ2匹の蜂。簗場さんが捕虫網を持って捕獲し「私の従業員、ごめんよ」と、捕らえた蜂2匹を踏み潰した。簗場養蜂場の蜂が特に気性が荒い感じではないので、普段に馴染んでいるものとは異なる匂いを発する生物に警戒心を抱いたのだろう。
簗場さんは内検の途中だった筈だが「今日は、ここまでにしよう」と、蜂場に隣接する自宅横に椅子を準備してくれて、更に話は続いた。
簗場さんが内検をしている巣板を下から見る
「ぐるぐると一週間に一回、順番通りに巣箱を内検して歩くんですけどね。蜂は奥深く、その日その日でも違うし、年によっても違う。今年は立ち上がりが早い。気候が早過ぎて、いつもより花が早く咲き始めたんですよ。2週間早かったかな。トチもアカシアも。でも、ギリギリ間に合いました。トチ山に持って行ったのは、4段群を6群持って行ったんですよ。蜂が良くないと、蜜は持ってこないので……。一群から(一斗缶で)一缶と半缶採れるんですよ。30キロといっても間違いないと思いますね。やめられないです、これは。蜂をとるか、蜜をとるか、ということなんです。蜜をとっちゃうと、蜂は弱る。トチの時には、この4段の状態になりますけどね。トチとアカシアは蜜を頂く。後は来春までの餌を採ってくれという考えなんです。春の奨励給餌はだめだと思います。蓋が掛かった蜜巣板は取り置きをしておいて、春にそれを与える。今の時点はもう来春に向けての飼育です。11月から12月始めには単箱一段になるんです。この蜂場の場所は、前後が湖だし、すっごい環境の良い所なんです。自慢できるのは何もないけど、環境は良いなと思って……。周りに畑なり田んぼがあれば、そこで使う農薬の問題が出てきますけど、それもないですから」
内検をしている巣板を覗き込む
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